2015年6月 ニュース/総合


5月13日、連邦議会で新年度予算案を発表するジョー・ホッキー財務相(Photo: AFP)

緊縮財政から成長に軸足

2015/16年度連邦予算案発表

連邦政府は5月12日、2015/16年度(15年7月1日〜16年6月30日)の連邦政府予算案を発表した。予算案の発表は、13年に発足した保守連合(自由党、国民党)のアボット政権下で2度目。昨年の予算案の緊縮策が強い反発を受けたことを念頭に財政健全化路線をトーン・ダウンさせた一方、小規模事業者への税制優遇措置を柱に経済成長を目指した投資に重点を移した。

予算案の規模は、基礎的現金収支ベースの歳入が3,980億ドル、歳出が4,298億ドル、差額の財政収支は351億ドルの赤字(政府系ファンド「フューチャー・ファンド」の利益33億ドルを含む)を見込んだ。赤字額が国内総生産(GDP)に占める割合は2.1%と前年度の2.6%から改善すると予想した。赤字額のGDP比は、16/17年度1.5%、17/18年度0.8%、18/19年度0.4%と段階的な縮小を目指す。

黒字化の目標年度は前回と同じく19/20年度とした。達成スケジュールに大幅な変更はないものの、前回予算案で訴えた財政健全化の掛け声は鳴りを潜めた。背景には、緊縮策が国民の強い反発を受けて政権支持率の低迷を招き、トニー・アボット首相の党内基盤の弱体化につながったことがある。主要メディアは政策の一貫性に疑問を投げかけたが、2月に自由党内から辞任を求める動きが表面化したアボット首相にしてみれば、軌道修正は当然の政治的配慮と言える。

代わりに打ち出したのは、足踏みする経済を強化するための投資だ。ジョー・ホッキー財務相は12日夜に連邦議会で行った予算案演説で「資源投資ブームから、より幅広い経済成長への難しい舵取りを成功させつつある」とこれまでの経済運営を自賛。その上で「小規模事業やチャイルド・ケア(託児)、インフラといった分野に財政支出の重点を移し、成長を加速させ、雇用を創出する」と強調した。

ただ、前回予算案の想定と比較して、15/16年度の税収は140億ドル、17/18年度までの4年間で合計520億ドル、それぞれ減少する見通し。最大の輸出商品である鉄鉱石の国際価格は、過去1年間でおおむね半値まで下落した。資源価格の急落は、経済だけではなく、政府財政にも影を落としている。

 

小規模事業者の一括控除、上限2万ドルに

予算案の目玉として政府は、「雇用・小規模事業パッケージ」を掲げた。年間売上高が200万ドル以下の事業者について、①法人税率の1.5ポイント引き下げ(28.5%)、②法人化していない零細事業の所得税課税額の5%削減、③備品や設備などの資産を直ちに一括控除できる金額の上限の1,000ドルから2万ドルへの引き上げ(予算案発表から17年6月30日までの時限措置)などを盛り込んだ。

同パッケージの予算総額550億ドルのうち90%をこれらの3つの施策に投じる。全事業所の96%を占めるとされる小規模事業者を対象とするため、裾野の広い効果を期待している。事業者の税負担を和らげるとともに資産購入を促すことで消費の刺激し、足踏みする景気の活性化を図る。

大企業に対しては、一部の多国籍企業をターゲットにした租税回避を防ぐ規定(16年1月1日施行予定)を盛り込んだ。前回の予算案で発表した育児有給休暇制度の導入は、既に野党の反対を受けて見送った。これに伴い、公約していた1.5ポイントの法人税率引き下げも、中・大規模企業については撤回した。

 

海外発デジタル製品・サービスにGST

一方、映像作品や電子書籍などデジタル・コンテンツの海外からのダウンロード購入や、サービスの海外からの受益などについては、これまで免除していた10%の財・サービス税(GST=消費税)を17年1月1日から徴収する。

ただ、オンライン通販などを通して個人が輸入する物品(1,000ドル以下)については、従来同様GSTを課税しない。オーストラリアでは国内の小売店よりも海外サイトから服飾や靴などを購入した方が割安になるケースが多く、オンラインの個人輸入需要が高まっている。このため、国内の小売業界は不当な競争を強いられているとして課税強化を主張していた。

このほか、託児費の補助金制度を一元化し、世帯収入が6万5,000ドル以下で両親が共働きの家族についてはチャイルド・ケア費用の最大85%を支援することなどを柱とした施策を17年7月1日から実施する。また、昨年12月にシドニーで立てこもり事件が起きるなどテロの脅威が高まる中で、テロ対策を強化するため4億5,000万ドルを追加支出する。

 

成長率2.75%に加速—予算案経済見通し

15/16年度予算案の経済見通しで連邦政府は、同年度の実質国内総生産(GDP)成長率は2.75%と14/15年度の2.5%から加速するとの楽観的な見方を示した。16/17年度はさらに3.25%と一段の成長を見込んだ。中国の需要縮小と世界的な供給過剰を背景とした鉄鉱石価格の急落にもかかわらず、「過去最低水準にある政策金利と原油価格の下落、豪ドル安が経済成長を支える」と予想した。

15/16年度の失業率は6.5%と14/15年度の6.25%から悪化する見通し。消費者物価指数(CPI)は2.5%と前年度の1.75%から上昇、賃金の伸び率は2.5%と前年度と同水準で推移する。

国内経済については、主な資源開発プロジェクトの完了により輸出数量は伸びていて、豪ドル安を背景にサービス輸出も拡大していると指摘した。個人消費は、依然抑制されてはいるものの、資産価値の拡大や原油安が堅調な伸びを下支えしているとした。

主な貿易相手国の経済については、米国とユーロ圏の景気回復基調が豪州経済にも好影響を与えると予想した。ただ、中国経済に関しては「より持続可能な成長モデルへの移行がスムーズに進まない可能性もある」との懸念も示した。

 

財政収支の見通し

 年度 13/14 14/15 15/16 16/17 17/18 18/19
 基礎的現金収支(単位:10億ドル) ▲48.5 ▲41.1 ▲35.1 ▲25.8 ▲14.4 ▲6.9
 対GDP比(単位:%) ▲3.1 ▲2.6 ▲2.1 ▲1.5 ▲0.8 ▲0.4

(▲はマイナス=赤字、13/14年度は実績値、14/15、15/16、16/17年度は予想値、17/18、18/19年度は推定値)
出典:2015/16年度連邦予算案

 

主な経済指標の見通し(単位:%)

 年度 13/14 14/15 15/16 16/17 17/18 18/19
 実質GDP成長率 2.50 2.50 2.75 3.25 3.50 3.25
 名目GDP成長率 4.00 1.50 3.25 5.50 5.25 5.50
 失業率 5.90 6.25 6.50 6.25 6.00 5.75
 消費者物価指数上昇率 3.00 1.75 2.50 2.50 2.50 2.50

(13/14年度は実績値、14/15、15/16、16/17年度は予想値、17/18、18/19年度は推定値)
出典:2015/16年度連邦予算案経済見通し



3カ月ぶりの再利下げを決めたオーストラリア準備銀行(RBA)のグレン・スティーブンス総裁

追加利下げ、政策金利2%に

消費の伸び後押し−豪準備銀

オーストラリア準備銀行(RBA)は5月5日、政策金利を0.25ポイント引き下げ、2%にすると発表、翌日実施した。同金利は既に現行制度下で史上最低の水準にあったが、足踏みする景気のテコ入れを図るにはさらに一段の緩和が必要と判断した。利下げは市場の大方の予想通り。今年2月に1年半ぶりに2.5%から2.25%に引き下げ、3月、4月は据え置いていた。

RBAのグレン・スティーブンス総裁は声明で、豪州経済を取り巻く状況について、国際商品価格の下落、依然として緩和的な主要国の金融政策、豪州の資源部門と非資源部門での投資の低迷が民間支出を抑制すると見られること、豪州の公共支出が引き続き抑制されると予想されること、の4点を指摘。「豪州経済は当面、一定の生産能力を余した状態が続くだろう」との見通しを示した上で、「足元の個人消費の伸びをより強固なものにするため」追加利下げに踏み切ったことを明らかにした。

また、為替相場について総裁は「豪ドルは過去1年間に対米ドルでは大幅に低下したが、ほかの通貨に対する下落幅はそれほど大きくない」として、資源価格が急落している中でさらなる豪ドル安が必要との認識を示した。

一方、不動産バブルの懸念について、総裁は「RBAはほかの規制機関と共同で住宅市場のリスクを精査し、抑制する」と述べた。このところの低金利や中国人投資家の需要を背景に、不動産価格は国内最大の都市シドニーで高騰、第2の都市メルボルンでも上昇している。

利下げを受けて、ジョー・ホッキー連邦財務相は、政策金利の引き下げ幅をそのまま金利変動型住宅ローン金利に反映させるよう銀行に要請した。豪4大銀行のうちANZ銀は0.25ポイント引き下げたが、ナショナル・オーストラリア銀(NAB)とコモンウェルス銀の引き下げ幅は0.2ポイントにとどまった。ウエストパック銀の引き下げ幅は0.22ポイントだった。



5月1日、シドニーで開いた住友ゴム・オーストラリアの開所式であいさつする池田育嗣・住友ゴム工業社長

住友ゴム、豪販社の開所式
市販用タイヤの販売強化

住友ゴム工業は5月1日、市販用タイヤの販売を手がける「住友ゴム・オーストラリア」の開所式をシドニーで開いた。昨年12月に住友商事との合弁で同社を設立、今年3月に営業を開始した。出資比率は住友ゴム工業75%、住友商事25%。現在、乗用車と4輪駆動車、商用車用のタイヤを市販向けに販売している。

同社は販社化の狙いについて「市場環境が厳しさを増す中で、『ファルケン』と『スミトモ』ブランドの販売基盤を強化し、増販を図る」と説明した。オーストラリアのタイヤ市場の見通しについては、移民の受け入れを含む堅調な人口増加を背景に「2020年くらいまでは年率約2%の伸びを想定している」と指摘した。



パレードの冒頭、日章旗を含む連合国側諸国の旗が目抜き通りを行進した(Photo:坪田隆宏)

アンザック・デーのパレードに日章旗

第1次大戦の日豪協力称え−ブリスベン

ブリスベン市内中心部(CBD)で4月25日に行われたアンザック・デー・パレードで、日章旗が初めて掲げられた。日本と豪州は第2次世界大戦の太平洋戦線で激しい戦火を交えたが、第1次大戦では連合国側の友軍としてともに戦った歴史がある。アンザック・デーは豪州がこれまで参加した戦役の従軍者に敬意を表し、戦没者を慰霊するための祝日。この日のパレードに元敵国の日章旗が掲げられたことは、第2次大戦終結から70年を経て日豪和解を象徴する出来事となった。

今年のアンザック・デーは、第1次大戦中の1915年、オーストラリア・ニュージーランド軍団(ANZAC=アンザック)が多数の戦死者を出したガリポリ上陸作戦からちょうど100年の節目。パレードは例年以上に趣向が凝らされ、多くの観衆が沿道を埋めた。

冒頭の式典でこれまでの従軍兵と戦没者に敬意が表された後、アンザック両国とともに第1次大戦を戦った24カ国の連合国側諸国の国旗を掲げた一団が目抜き通りを行進した。この中に、第1次大戦に連合国側から参戦し、豪州艦の護衛などに従事した日本の国旗も含まれた。主催者側の公式招待を受けた在ブリスベン日本国総領事館の柳沢陽子総領事と渡部隆彦首席領事が、貴賓席からパレードを見守った。

今回の日章旗掲揚をめぐっては、一部の退役軍人から激しい反発が出ていた。このため、主催者側は事前に「あくまでも、第1次大戦でともに戦った全ての国々への敬意の表れであり、それ以上の意図はない」との異例の見解を発表していた。

ガリポリ上陸作戦
英・仏・豪・ニュージーランド軍を主力とする連合国軍が1915年4月25日、オスマン帝国のガリポリ半島(現在のトルコ)に攻め込んだ大規模な上陸作戦。しかし、オスマン帝国軍の激しい抵抗を受けて、連合国は半年以上にわたる戦闘で数多くの犠牲者を出して撤退、作戦は失敗した。豪戦争記念館によると、豪州は8,159人の兵を失った。当時、建国から間もない豪州にとって同作戦は初の本格的な海外遠征で、多大な犠牲は後の国家観の形成に影響を与えたとされる。後に4月25日はアンザック・デーの祝日となり、ガリポリの海岸やオーストラリア各地では毎年、大規模な式典が実施されている。なお、同作戦に先立つ1914年、当時友軍だった日本はインド洋に巡洋戦艦「伊吹」を派遣し、欧州戦線に向かう豪州船団を護衛した。

ワーホリ生活、一段と厳しく
所得税率、一律32.5%に

海外の若者が最長2年間、オーストラリアで働きながら滞在を楽しめるワーキング・ホリデー(WH)制度。その生活は、高い滞在費や雇用のミスマッチを背景に必ずしも楽ではないが、今後はいっそう厳しさを増しそうだ。連邦政府は5月12日に発表した2015/16年度予算案でWH滞在者の所得税に対する課税を強化する方針を表明した。

WH滞在者は現在、税務上の居住者として扱われているため、オーストラリア国民や永住者と同じく収入に応じて所得税率が高くなっている。14/15年度の所得税率は、年収0~1万8,200ドルが0%、1万8,201~3万7,000ドルが19%、3万7,001~8万ドルが32.5%などとなっている。

しかし、連邦政府は今回の予算案で、16年7月1日以降、WH滞在者を非居住者扱いとし、1ドルでも収入があれば一律で32.5%(8万ドルまで)の税率を課す方針を打ち出した。このため、現状で年収3万7,000ドル以下の平均的なWH滞在者にとっては、手取り収入が大幅に減少することになる。一方、連邦政府はWH滞在者を税務上の非居住者に変更することで、18/19年度までに5億4,000万ドルの税収増を見込んでいる。

オーストラリアのWH滞在者数は、ビザ(サブクラス417)の発給数ベースで年間22万9,378人(13/14年度=1年目と2年目の合計)。国・地域別では、英国人が全体の19.7%に当たる4万5,208人と最多で、次いで台湾、韓国、ドイツ、フランスなどの順に多い。日本人は1万579人で9番目となっている。

WH滞在者は、遠隔地の農業生産者にとって収穫作業に欠かせない労働力。語学学校や留学あっせん業などの教育産業や、バックパッカーズ(簡易宿泊施設)などの観光産業の有力な収入源ともなっている。今回の税制変更はWH需要を縮小させかねないため、関連業界の強い反発が予想される。

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