【政局展望】低迷するショーテンへの評価

政局展望

低迷するショーテンへの評価

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

2013年10月に野党労働党の党首に就任して以降、今年の初頭に至るまで、相当な高支持率を謳歌してきたショーテンだが、ここ数カ月は評価が大きく低迷している。しかも、今後評価が大きく改善する見込みも小さいと言える。

アボット首相の低人気とQLD州選挙

今年の初頭までのショーテン野党党首は、極めて恵まれた政治環境にいたと言える。通常は何カ月も続く、新首相と国民との「蜜月期間」が異例なほど短かったことからも看取されるように、元々アボットは国民の間で人気の低い政治家であるし、また昨年5月に政府の初年度連邦予算案が公表されて以降は、同予算案への国民の強い反発が引き起こされたからだ。しかも、野党労働党の勝利に終わった今年1月のQLD州選挙は、アボットのリーダーシップにも甚大なダメージを与えている。実は既に昨年の後半以降、各種世論調査でのアボットの低評価を背景に、アボットの指導スタイル、具体的には、独断専行ぶりや党内コミュニケーションの不足、そしてアボットのチーフ・オブ・スタッフであるクレダリン女史の、過剰な介入や党内管理に対して、党内、とりわけ激戦区を抱える陣笠議員より盛んに「雑音」、不満の声が上がっていた。

ただ、それが一挙に、かつ次期連邦選挙の前に、アボットへのリーダーシップ挑戦の動きにまで発展すると見る向きは極めて少なかった。その最大の理由は、労働党のラッド首相の失脚事件からの教訓、すなわち「2010年ラッド降ろしクーデター」によって、労働党が払拭し難いダメージを被ったことからの教訓であった。

ところが今回のQLD州選挙は、自由党陣笠議員を中心とする与党議員を一挙にパニック状況に陥れ、アボット降ろしの動きが顕在化したのである。そして、あれよあれよと言う間に、アボットは臨時の連邦自由党議員総会を開催し、そこで正副党首選挙実施の是非を諮はかる、指導部不信任動議を採決することを余儀なくされている。結果は、動議への支持が39票に対し反対は61票と、動議支持が過半数に達しなかったことから、動議は否決され、したがって正副党首の選挙も実施されずに終わったものの、アボットの権威は相当に毀損されてしまった。

ショーテンへの評価の低迷


ここ数カ月で評価が大きく低迷しているビル・ショーテン野党党首

以上のような恵まれた状況下、環境下で、ショーテン野党がやるべきことは、野党の主要タスクである政府攻撃一辺倒、政府政策への徹底した反対であり、実際にショーテン野党は、そういった「ネガティブ一辺倒」路線を採用するとともに、常套的な「小さな標的」戦略を併せて採用して(注:自身の手の内、政策内容は明らかにせず、相手の行動や政策などへの攻撃、批判に終始する戦略)、これまで世論調査での支持率を高めてきた。ところがここ数カ月前から、ショーテン野党への国民の評価も辛口のものへと変化している。とりわけショーテン陣営にとって最もショッキングな点は、各種世論調査における両リーダーのパフォーマンスに関する評価である。すなわち、ネット・パフォーマンス評価(注:「満足度」マイナス「不満足度」)でショーテンが、不人気あるいは低評価リーダーの「代名詞」とされてきたアボットを下回っていることだ。

周知の通り、有権者の投票行動を決定する上で重要なのは、国民生活に直接影響を及ぼす、2大政党の経済運営能力に対する有権者の「漠然とした」イメージ、評価であるが、2大政党へのイメージを形成する上では、リーダーへの評価や好悪も極めて重要である。そのため、ショーテンのリーダーシップぶりに労働党内からも懸念の声が上がっている。

評価低迷の背景

ショーテンへの評価が低迷している背景には、今年に入ってから政治環境が大きく変化したとの事情がある。まず第1に、上述した驚天動地のQLD州選挙の結果である。同選挙の意味合いとは、「政権は連続2期続いて当然」とのこれまでの「政治常識」が怪しくなったことであった。換言すれば、下院と上院半数改選の同時選挙という通常の形態であれば、来年8月以降に実施される次期連邦選挙で、不人気なアボット保守政権が1期のみで敗北し、ショーテン野党労働党が勝利する可能性があることを意味する。そのため、通常よりも早い時期に、しかもより真剣に、野党並びにショーテンの能力が注目され始めたのである。しかし、これまでのところ「小さな標的」戦略を採用してきた野党が公表したのは、多国籍企業の節税防止策や退職年金の優遇税制度の変更策など、極めて少数、マイナーなものに過ぎず、国民としても判断材料が与えられていない状況となっている。そういった状況は、野党労働党の「ネガティブ路線」の無責任さばかりか、政権担当能力の低さを、早々と印象付ける結果となったのである。

第2に、アボット保守政府、とりわけアボットのパフォーマンスの改善である。アボット本人も告白しているように、QLD州選挙の直後に実施された自由党臨時両院議員総会での指導部不信任動議の採決は、アボットにとって正に「臨死体験」であった。深く反省したアボットは、その後、党内の風通しを良くすべく鋭意努力するとともに、党内陣笠議員たちが懸念する国民に不人気な節減政策を破棄、もしくはソフト化し、また5月に公表した今年度連邦予算案では、昨年からは一転して穏当な路線を採用している。その結果、党内求心力が著しく強化されたばかりか、国民のアボット政府への評価もかなり改善している。実のところ、つい最近までショーテン野党への評価がアボット与党へのそれを上回っていたのも、ショーテンへの絶対的評価が高かったためでは毛頭なく、単なる相対的評価、すなわちアボットへの評価が低かったことの裏返しに過ぎなかった。ところが、そのアボットの評価が改善してきた結果、ショーテンの相対的評価が低まっているのだ。

第3に、ディー・ナターレ新党首下のグリーンズ党の変貌、具体的には、ショーテン野党ばりの「反対/ネガティブ一辺倒」路線からの転換である。もちろん、今後もグリーンズがソフト路線を採り続けるとの保証はない。というのも、ソフト路線の継続はグリーンズ内の求心力を低める危険性があるからだ。しかしながら、例えば政府の老齢年金制度変更法案を支持したグリーンズの「合理的」行動は、それとは対照的に頑なに反対し続ける、ショーテン野党労働党の短期的な政治的得点優先の姿勢を印象付けるものであった。また相当な歳出削減を実現する同政策への反対によって、大政党である労働党の財政再建問題での無責任さが浮き彫りにされたばかりか、労働党は自ら制限してきた政策の選択肢を一層狭めることともなった。

最後に第4点として、ショーテンの人となりに疑問符をつける事件が明らかになったことも大きい。ショーテンは7月初旬に、労働組合の運営ぶりや労組幹部の行状を調査するためにアボット政府が発足させた、ヘイドン司法委員会に「証人」として召喚され、合計で何百にも上る質問に晒されている。ショーテンへの喚問は、ショーテンが豪州最古の名門右派労組である、豪州労働者組合(AWU)のVIC州支部書記長やAWU全国書記長であった時代の、AWUの運営や行動、ショーテンの指導ぶりなどに関するものであった。その中でも司法委員会の主要な関心事は、当時AWUがいくつかの企業と交わした企業別協約の内容が、例えば、該当する裁定内容を著しく下回る賃金などの労働条件を含むものであったにも関わらず、いわゆる「不利益審査」をパスし、しかもショーテンAWUが傘下の労働組合員にも内密に雇用者側とディールを結び、雇用者からAWUに対し、目的や使途の不明瞭な資金が流れていたとの事実にあった。この問題を鋭く追及されたショーテンは、「イエス」や「ノー」といった明確な回答は極力避けて、冗長かつ的を外れた回答を繰り返している。そのためヘイドン委員長より、このままではショーテンの証人としてのクレディビリティーに重大な疑問符が付く恐れがある、などと警告を受ける羽目に陥っている。

いずれにせよ、ショーテンが幹部であった時代のAWUが、各雇用者との企業別労働条件協約交渉において、AWUへの財政的恩恵や労組の政治的影響力の強化を最優先にし、肝心の傘下労組員の便益、権益の増進を軽視、あるいは無視していたとの疑いが持たれているのだ。事実であれば、ショーテンの人格への評価をも毀損しかねない深刻なものである。さらに司法委員会では、2007年11月の連邦選挙キャンペーンに際して(注:ショーテンが連邦政界入りしたのは同選挙)、ショーテンがある企業から総額6万ドルほどの政治献金を受けたにもかかわらず、必要な豪州選挙管理委員会(AEC)への献金報告を怠っていた、などの事実も明らかにされたことから、ショーテンは相当に大きなダメージを蒙った。

ショーテンの将来

以上に述べてきた通り、政治環境の変化によってショーテンの評価も低迷しているわけだが、あくまで現時点での予測では、次期連邦選挙の前にショーテンが失脚し、野党党首が交代するとのシナリオはやや考え難い。その理由は、首相と野党リーダーのケースでは比較にならないとは言え、10年6月の「ラッド降ろしクーデター」後の経験から、労働党議員の多くも、問題が発生するごとにリーダーをすげ替えることの弊害を十分に認識しているからだ。また、ショーテンの後継候補とされるプリベセック、アルバニーズ、ボーウェン、バークなどにしても、多くの議員たちはショーテンよりもベターとは思っていないからだ。ただ、野党党首交代の可能性が低いと予想する最大の理由は、13年6月に首相に返り咲いたラッドの主導で、党首選出のルールが変更され、その結果、労働党党首の地位が強く護られているためだ。

ちなみに新ルールでは、①連邦選挙で敗北した場合は、(従来通り)選挙後、自動的に党首選挙を実施する、②野党労働党の党首が党の評判を著しく毀損したとして、労働党両院議員総会「コーカス」のメンバーの内の60パーセント以上が要求した場合には、任期中途に党首選挙が実施される。一方、③連邦選挙で勝利を収めた場合は、与党労働党党首は当該議会任期の間の地位を保証される、ただし、④(上記③のケースであっても)(ア)任期中途に党首が自ら辞任した場合、(イ)党首が要求した場合、あるいは(ウ)「コーカス」のメンバーの75パーセント以上が、党首が党の評判を著しく毀損したことを理由に要求した場合には、任期中途に与党党首選挙が実施される、⑤党首の選出は「コーカス」メンバーおよび一般党員の投票により決定され、両者の投票の「重み」は半々ずつとする、などである。

上記の骨子からも明らかなように、新ルールは、労働党党首の地位を安定させるもの、換言すれば、党首を「引きずり下ろす」ことを極めて困難にするものである。なお、それまでのルールでは、与党時であれ野党時であれ、労働党の党首は、「コーカス」のメンバーの30パーセント以上の支持があれば、党首選挙の実施を余儀なくされた。いずれにせよ、現時点で多くの労働党議員たちが希望、期待するのは、ショーテンを代えることではなく、ショーテンが指導スタイルを変えることであろう。

しかしながら、最後に附言すれば、この新ルールは7月下旬に開催される重要な労働党全国党大会では(注:労働党は大会での採択事項の拘束力が強い政党で、決定事項は全党員を厳格に拘束する。これが自由党や国民党の党大会に比べ、労働党の党大会の意義を強めている)、党の綱領には明記されない見込みである。綱領とは労働党の憲法であり、これに盛り込まれればルールは「聖域化」され、またいったん盛り込まれれば変更も困難となる。他方で、予想通りに盛り込まれなければ、党首選出の新ルールは、それを採択したコーカスによって再度変更されることも可能となる。要するに、新ルールは党首の地位を著しく強化するものだが、新ルール自体は脆弱な状況に置かれることになるのだ。仮にショーテンの評価が一向に改善せず、それに伴って野党支持率も「低空飛行」を続ければ、まず新ルールを緩和しようとの動きが強まるかもしれない。

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