[特集]2016/17連邦政府予算案の特徴

[特集]2016/17連邦政府予算案 Budget 2016-17
松本直樹
政局展望

来年度連邦予算案の特徴

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー 松本直樹

5月3日(火)、ターンブル率いる自由党-国民党保守連合政権が来年度連邦予算案を公表している。2013年9月に誕生した保守連合政権としては3回目、そして15年9月に誕生したターンブル保守連合政権にとっては初の予算案の特徴、ポイントとしては、主として以下の3つが挙げられる。

責任ある予算案

連邦下院の任期は最大で3年であることから、通常は次回の下院選挙までに計3回の連邦予算案が公表される。3回の中では選挙後の初回予算案が、国民の反発する各種歳出の削減策、あるいは増税策を盛り込んだ、かなり厳しいものとなるのが一般的である。というのも、初回予算案は時期的に次期選挙からは最も遠いことから、他の2回の予算案に比べると、政府としてもかなり安心して、必要不可欠な厳しい施策を採用することができるからだ。

これに対して、次期選挙の間近に策定、公表される第3回目の予算案は、選挙対策予算案、すなわち、有権者の「票買い」のための露骨な「大盤振る舞い」、少なくとも国民の懐に直接影響を与える、寛大な懐柔策が盛り込まれているのが普通である。一方、中間の第2回目の予算案は、「可もなく不可も無し」的な予算案となることが多い。ところが、今回公表された連邦予算案は、第3回目の予算案、しかも、通常よりもはるかに選挙に近い時期に公表されたものであるにもかかわらず、有権者懐柔のための「ポーク・バレル策」が極めて少ないものとなっている。財政が逼迫しているとはいうものの、これは異例のことと言える。

確かに2016年予算案には有権者の懐を潤す、個人所得税の減税策が盛り込まれてはいる。すなわち予算案の減税策によると、上から3番目の限界税率である32.5%が適用される区分課税所得範囲が、現行の「3万7,001ドル~8万ドル」から「3万7,001ドル~8万7,000ドル」へと変更される。ただ、同施策による減税効果は中所得層以上を対象とするもので、減税の効果も年間当たりで最高315ドル、週当たりではわずか6ドル程度に過ぎないものである。

ターンブルは安易な「ばらまき」よりも責任ある姿勢を示すことを選択した
ターンブルは安易な「ばらまき」よりも責任ある姿勢を示すことを選択した

今回の個人所得税の減税策は、有権者への懐柔策、選挙対策としては穏当過ぎるもので、モリソン財務大臣も繰り返し強調していたように、むしろ「ブラケット・クリープ」(注:インフレに伴う賃上げによって名目賃金が上昇し、その結果、多くの就労者の個人所得に一段高い税率が適用される現象)対策に過ぎないものと言えよう。一方、今次予算案の最大の「目玉」としては、後述する法人税の減税策があるが、これを「有権者へのばらまき」と見ることはできない。典型的な選挙対策であるのは、直接有権者の懐を潤す大型の個人所得税の減税策、もしくは家族手当の増額といった、社会保障分野での政策であるからだ。しかも、今次予算案には特筆に値するような「ばらまき」策が含まれていないどころか、個人所得税の減税策にしても、法人税の減税策にしても、ターンブル政府は他の分野での節減や増税策を通じて、減税の財源を捻出、確保した上で、減税策を策定している。

こういった点から、今次予算案を「退屈予算案」と揶揄する向きもあるが、むしろ政府の財政上の責任ある姿勢を称賛すべきであろう。

その背景には、経済リーダーシップを前面に掲げてアボットを引きずり下ろしたことから、安易な「ばらまき」よりも責任ある姿勢を示すことこそ、選挙上も極めて重要な経済運営能力への評価を高めることができる、とのターンブルの判断、読みがある。

「公平」イメージの追求

2015年9月に失脚したアボットは、長期にわたってやや不当とも言える低評価に苦しんでいたが、14年後半以降の低評価は、アボット政府、とりわけアボット自らがまいた種によるものであった。すなわち、アボット政府は14年5月に公表された初年度連邦予算案に、財政再建のための多くの節減策を盛り込んだのだが、これが国民の大反発を惹起したのである。そして国民の反発の背景には、何よりも数多くのアボットの公約違反の存在があった。しかも、国民の多くが14年予算案に対して、実際以上に「社会的弱者いじめの不公平なもの」との思いを抱いたことも痛かった。政府への批判や「弱い者いじめ」イメージの背景には、アボット政府が財政再建が何故に必要なのか、そのためには、いかなる制度改革や政策変更が必要なのかについて、国民を啓蒙し、説得することに失敗してきたとの事情があり、さらにその主因は、アボット指導部にコミュニケーション・スキルを備えた政治家、辣腕の「セールスマン」が不足していたことにあった。

他方で、野党労働党の卓越したネガティブ・キャンペーンの効果も絶大なものであった。そのため今回のターンブル予算案では、アボット政府時代の教訓を活かして、「公平さ」のイメージ作り、あるいは「不公平」イメージの払拭に重大な努力が払われている。好例が、若年失業者への「アメ」施策であろう。一時よりは改善したとは言え、現在も若年労働者の失業率は全体の2倍くらいの高水準にある。これを改善するために、16年予算案には「若年雇用パッケージ」という、若年失業者への大規模な就活支援策、雇用促進策が盛り込まれており、これが今次予算案の「目玉」の1つともなっている。

この若年失業者対策が特筆に値するのは、大げさに言えば「哲学」の面から、同政策が従来の保守連合の失業対策からは一線を画するものであるからだ。そもそも自由党は「揺りかごから墓場まで」的な福祉国家観には強く反対し、むしろ国民の自助努力の強調を、その社会保障/福祉政策の特徴としている。そのため、ハワードおよびアボット保守政府時代の若年失業者対策は、主として「アメ」ではなく「ムチ」を通じたものであった。

またアボット政府の時代には、同じく失業対策でも、重視されたのは若年層への対策ではなく、むしろ年配層失業者への支援であった。ところが、自由党穏健派のターンブル率いる政府が策定した今回の予算案では、若年失業者対策が重視されているばかりか、しかもそのための方策として、「ムチ」ではなく寛大な「アメ」が採用されているのだ。同政策が採用された背景には「未来志向」、「21世紀の政府」を標榜するターンブル政府が、そのイメージ作りのために「未来の世代」に焦点を合わせたという面もあろう。

だが、より重要な点としては、14年予算案における「弱い者いじめ」の犠牲者として大いに同情を寄せられた、これら若年失業者層を大事にすることを通じて、依然として野党労働党が強調する「保守政府は不公平」とのメッセージを何とか「中和」したい、とのターンブル政府の動機があったと言えよう。ただ、アボットの15年予算案の場合は、主として「社会的弱者いじめ」と解釈された14年予算案内の政策の廃棄を通じ、「不公平」イメージの払拭を狙っていたが、ターンブルの16年予算案の場合は、さらに「強い者いじめ」を通じてそれを実現しようとしている。典型例が、今次予算案の「目玉」の1つである、富裕層をターゲットとした私的な退職年金制度の変更策であり、また多国籍企業の租税回避措置への対抗策である。

とりわけ重要なのが、今次予算案に盛り込まれると予想されてはいたものの、その規模の大きさが「サプライズ」であった、退職年金優遇税制度の変更策である。ターンブル政府が何らかの退職年金制度関連政策を公表すると予想されたのは、ショーテン野党労働党が、公的な老齢年金制度には問題は無いと主張する一方で、富裕層に寛大過ぎることから、富裕層の節税対策や蓄財に悪用されているとして、退職年金制度の優遇税制の変更を強く主張してきたからであった。また、ターンブルは個人資産が2億ドルという大金持ちであることから、ただでさえ富裕層の味方、あるいは一般庶民から遊離している、といった攻撃には脆弱である。

そのため、労働党の最近の政策面での攻勢に対抗するためにも、こういった金持ちイメージを和らげるためにも、ターンブル政府は、富裕層を目標とした優遇制度の厳格化策を提示したのである。なお、連邦財務省の試算によると、上記施策による税収入増は向こう4カ年度で29億ドルに達するが、厳格化措置の影響を受ける退職年金利用者は、上位わずか4%の富裕層に過ぎない。附言すれば、「不公平さ」イメージの払拭を狙って、社会的弱者にはできるだけソフトな、他方で、社会的強者にはしばしば容赦の無いターンブルの予算案は、結果的にいくつかの重要政策分野で、野党労働党の政策にかなり類似したものとなっている。

税制改革を通じた財政再建

アボット政府の2015年予算案は、14年予算案とは打って変わって、何よりも世論調査の改善を最優先とした「ソフト」予算案であった。ただ保守政府、とりわけ自由党としては、国民から財政再建問題を蔑ろにしているとのイメージを抱かれ、有権者の投票行動を決定する上でも重要な、肝心の経済運営能力の評価が毀損されることはぜひとも避けたかった。そのためにもアボット政府としては、引き続き財政再建を追求する、少なくとも追求していると見られることが肝要であったが、もちろん、再度歳出サイドを通じた財政再建などは、国民の強い反発を背景にした上院の強い抵抗もあって、もはや現実的なオプションではなかったと言える。

そこで15年予算案でアボット政府が採用したのが、歳入サイドを通じた財政再建の追求であった。ただし、増税策は歳出カットと同様の批判を惹起するし、野党時代のアボット保守連合は、ラッド/ギラード労働党政権を「重税政権」として執拗に攻撃してきたとの事情もあった。そのためアボット政府は、経済成長を通じた税収入の自然増収を、財政再建のための「ビークル」として位置づけるという、極めて都合のいい財政再建戦略へと転換したのである。

確かに、経済の「パイ」が大きくなれば、法人税の増収が期待できるし、また雇用が拡大して個人所得税の納税者が増加するばかりか、賃上げによる「ブラケット・クリープ」効果によって、個人所得税も増収となる。他方で、失業者の減少によって失業手当て支出の減少も見込まれる。その「プラス効果」の中でも、とりわけアボット政府が期待していたのが、主として「ブラケット・クリープ」効果による増収であった。ところが歳入サイドに強く依存した、換言すれば、持続的経済成長による税の自然増収を通じた財政再建戦略については重大な疑義が呈され、それが、15年予算案全体の信頼性をかなり損なったのである。その理由は、アボット政府が金科玉条としていた連邦財務省の予測シナリオがあまりに甘い、あるいは楽観的過ぎるとして強い批判を浴びたからであった。

実際に、それまでも財務省/政府の経済予測値は極めて信頼性の低いものであった。以上のような、アボット予算案を巡る経緯を教訓にして、今次ターンブル予算案には「他力本願」、あるいは単に楽観的な予測に基づく歳入増加に頼るのではなく、経済の「パイ」を大きくするための方策、長期的な経済計画が盛り込まれている。それが、法人税の長期減税計画、具体的には、法人税減税の恩恵を受ける対象事業体/ビジネスの段階的拡大と、同時並行的に実施される法人税率の漸進的な低減を通じた、雇用創出と経済成長路線である。

保守政府の計画では、10年後には中小事業体どころか、大事業体を含む全法人企業の税率が、一律25%にまで低減されることとなる。モリソン財務大臣は5月3日の議会予算案演説の中で、今次予算案の中核目標として3つ、すなわち、「雇用と成長」、「税制改革」、そして「財政再建」を掲げていたが、それぞれは独立して重要な目標ではあるものの、モリソンが強調したかったのは、税制改革を通じた雇用創出と経済成長、その結果としての財政再建であった。また税制改革は、リーダーのターンブルにとって「失地回復」のためにも重要なものであった。というのも、今年初頭までは相当に好調であったターンブル与党への評価、とりわけターンブル個人への評価が低迷気味となったのは、今年の2月中旬頃に実施された各種世論調査からであったが、低迷の背景には、税制改革問題、具体的には、財・サービス税(GST)制度の改革問題を巡って、ターンブルのリーダーシップに疑問符が付けられたとの事情があったからだ。

すなわち、アボットの経済リーダーシップの欠如を党首挑戦の最大の理由として挙げてきたターンブルが、肝心の経済政策分野で「腰が砕けた」ことにより、ターンブルには決断力が欠如している、あるいは、確固とした信念や信条が欠如している、換言すれば、「ターンブルは弱いリーダー」とのパーセプションが醸成されつつあったのだ。そのことを強く認識してきたターンブルは、財政再建のため、また毀損された経済リーダーシップへの評価を回復させるべく、今次16年予算案に予想以上に大きな税制改革政策を盛り込んだのである。


[特集]2016/17連邦政府予算案 Budget 2016-17
菊井隆正

2016/17年度 オーストラリア連邦予算案

EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括 菊井隆正

昨年9月にターンブル政権に変わってから初めての連邦予算案が5月3日に発表された。「雇用拡大と経済成長」をスローガンに掲げたこの予算案では支出を抑える財政再建を進める一方、中小企業への法人税減税や名目所得の増加に応じて所得税率が高くなるブラケット・クリープによる中間所得層への増税を抑制するなどの施策などで経済活性化を図る。税収が減る分は多国籍企業に対する課税強化や高所得者に対する年金制度の優遇政策の見直しで穴埋めする。一方、就任当初期待されていた抜本的な税制改正の導入は選挙戦を控え今回は見送られることになった。本記事では日系企業に影響を与えると思われる主な施策を案内する。

経済

主要な指標

基礎的現金収支は今年度(2015/16年度)は399億ドルの赤字を計上後、選挙年にありがちな財政支出への甘い誘惑を回避し、4年後の19/20年度には赤字が60億ドルに縮小するという財政規律を回復させる姿勢を示した。
 ただし、専門家の間では、政府が提供した予算案見積りに取り入れている楽観的な前提条件が疑問視されている。特に、オーストラリア政府は、名目GDP成長率が今年度の2.5%から来年度は4.25%へと急昇することを見込んでおり、その後3年間5%という高いレベルを維持するとしている。


Outcomes Forecasts Projections
2014-15 2015-16 2016-17 2017-18 2018-19 2019-20
実質GDP成長率 2.2 3 3 3
失業率 6.1
消費者物価指数(CPI) 1.5 2
賃金物価指数(WPI) 2.3
名目GDP成長率 1.6 5 5 5

Source: 2016 Federal Budget Overview

税務関連の分析

10年をかけて段階的に法人税率の引き下げ

法人税率 — 2016/17 課税年度以降

課税年度 売上高(S) 税率(%)
2015/16 2m 28.5
2016/17 10m 27.5
2017/18 25m 27.5
2018/19 50m 27.5
2019/20 100m 27.5
2020/21 250m 27.5
2021/22 500m 27.5
2022/23 1bn 27.5
2023/24 All companies 27.5
2024/25 All companies 27.0
2025/26 All companies 26.0
2026/27 All companies 25.0

法人税率の引き下げは16/17年度から開始され、まず最初に売上げ1,000万ドル未満の小規模企業の法人税率を16/17年度より現行の28.5%から27.5%へ引き下げられる。減税対象は更に売上高が大きい企業にも年々拡大され、22/23年度には10億ドル未満の企業が27.5%となり、26/27年度には、全ての企業が25%の法人税率に引き下げられる。

税率引き下げの初期段階では、大規模企業グループのオーストラリア子会社は、全世界における売上高を合計して限度額を決定する可能性があることを認識すべきであろう。

公共及びATOに対する透明性の拡大

任意の税務情報の透明性規範を導入し、法人形態を有する売上高1億ドル以上の事業者は下記の税務情報を公表する。

• 会計上利益と支払税額または未払法人税との照合
• オーストラリア国内の事業およびグローバル事業の実効税率

税制委員会は、オーストラリア会計基準委員会に対して財務報告において使用する実効税率の共通の定義に関するガイダンスを発表することを提案する。当ガイダンスが発表されるまでは、一般的に認められる計算方式の採用を事業者に促す。

更に、年間売上高5億ドル以上の事業者に対しては、次の項目の開示を推奨する。

• 税務方針、税務戦略及びガバナンス
• 税金の総支払額
• 海外関係会社との取引

任意の税務情報の透明性規範では、オーストラリア一般目的財務諸表(General Purpose Financial Accounts)、他の目的で作成する税務レポートまたは同制度の目的で作成するレポート内のいずれかで開示することが可能である。ただし、いずれのレポートにせよ誰でも簡単に事業者のウェブサイトを利用してアクセスできなくてはならず注意が必要である。一般的財務諸表内に記載する場合は通常の会計監査の対象となることが予想されるが、税制委員会は会計監査の強制を推奨しない方向でおり、事業者に対して具体的にどのような形で開示を促すかは現時点では詳細が発表されていない。

租税回避を巡る内部通報者への新たな措置

政府は、18年7月1日以降に租税回避行為やその他税金にまつわる事項についてATOに内部通報者への保護措置を導入する。内部通報者の身元は機密事項として保護され民事・刑事訴訟から守られる。

事業納税者はこれらの措置を利用して利益を得ようとする者に対する対策を検討する必要がある。例えば、行動規範の中に会社の税務処理に懸念を持つ従業員が活用できる社内報告システムを含めることが考えられる。

タックス・プランニングの開示要件

税務アドバイザーやファイナンシャル・アドバイザーが、アグレッシブなタックス・スキームを報告することを義務付ける規定を今後検討する。

ガバナンス強化に向けての新たな施策

14年の税制改正ディスカション・ペーパーではオーストラリア税制に関する複雑性と税制改正における枠組みが欠如していることが認識されており、今回の予算案の中には下記のようなガバナンス強化に向けた対策が含まれている。

• 税制の更新・改善を後押しする税制改正法案に対するコミットメント
• 改正に対するオンラインによるフィードバックを促進
• 税務専門家を交えた税務方針および法律の構築
• ATOが発表したガイドラインに基づく税法の簡素化 オーストラリアは更に組織的な税制改正の取組みを必要とされ、将来的には税制改正委員会の構築が検討されることが見込まれる。

迂回利益税(Diverted Profits Tax)

多国籍企業に対する新しい租税回避防止規定

17年7月1日より適用が開始される迂回利益税は、15年12月に施行された多国籍企業による租税回避防止規定に対する改正であり、当該規定の内容をイギリスにおける迂回利益税の規定により近づく結果となった。

これにより、大企業グループの一部を構成する下記の国外事業体の利益がオーストラリアで課税されることとなる。

• オーストラリア国内の関連会社が関与する決済及び取引から発生する利益
• オーストラリア国外の税総額がオーストラリア税法上支払われるべき税総額の80%を下回った場合の利益
• 「経済的実態が不十分」とされる利益、すなわちATOにより取引が課税所得の減少を目的としていると合理的に判断された場合の利益

迂回利益税の対象となる取引の範囲は意図的に広く設けられており、オーストラリアの移転価格税制を充分に遵守している取り決めであっても迂回利益税の対象となる取引に含まれる可能性がある。

迂回利益に対しては40%の税率が適用されるが、この対象となる取引について外国で納税された事実があったとしても外国税額控除は認められない。この規定は17年7月1日以降はもちろん、それ以前に開始された取引についても適用されることから、納税者は、既存の取引がこの規定の対象範囲に入っているか否かを速やかに判断し罰則規定に対処する必要がある。この規定はATOによる「評価」を経て適用される。

多国籍企業に対する監視強化

ATOは今後4年間にわたり6億7,900万ドルの予算を用いて、20年6月30日まで多国籍大企業、プライベート・グループ、富裕層に対する現行の法律遵守制度を強化・拡大するための特別調査委員会を設立する。この特別委員会により向こう4年間で37億ドルの税収が期待される。

ATOが力を入れてくるためこの調査に耐え得る準備をしっかりとしておくことが必要となる。また意図的な租税回避については裁判による判例を通じて現行の法律を審査する準備がATOにあることも留意する必要がある。

特別委員会は税務長官を中心に著名な本判事により補佐され、1,000人超の専門家(うち新たに任命される390人の専門分野に特化する役人を含む)により構成される。特別委員会はオーストラリア証券投資委員会(ASIC)との更なる情報交換によりリスクの分析と発見を強化する。

移転価格

予算案では、15 年版OECDレポート(Aligning Transfer Pricing Outcomes with Value Creation BEPS行動規範8-10)にある独立企業原則の適用に関する新しいガイドラインの導入開始日が16年7月1日になると発表された。

行動規範8-10は、当該ガイドラインで下記に挙げるグループ内取引に関連する移転価格の適用範囲を拡大することにより課税基盤の侵食を防止する。

• 契約上リスクを負うことだけを理由にした、リスクと利益のグループ内関連会社への移転
• 第三者間においては起こらないもしくはほとんど起きることがない取引
• 商品取引の価格設定に対して独立価格比準法(Comparable uncontrolled price method)の適用を提唱
• 無形資産の移転と利用について価値の創造に基づいた利益配分の保証(費用分担契約(Cost Contribution Arrangement)を含む)
• 一般的な課税基盤を侵食する支払いを含むグループ内の役務提供取引。例えば、マネージメント費用、本社費用

当該ガイドラインによりATOは、改正法に基づき利益移転取引に対して異議を唱える権限を手に入れた。納税者はATOの移転価格取引に対する広範囲にわたる権限に対処する準備をしておく必要がある。現段階ではこれからのガイドラインがまだきちんと整備されていないため、取引相手よりも先に対処しすぎると逆に税務訴訟や二重課税のリスクを増大させる結果につながりかねない。

このことから、OECDガイドラインへの変更は、これまで部分的焦点を当てるのではなく、移転価格における様々な局面を考慮した上で全体を見て判断されてきた。OECDガイドラインへの変更は例外なく受け入れられるものでなくてはならないとされてきた。

小規模事業に対する施策について

予算案では小規模事業の売上高の上限金額を16年7月1日より200万ドルから1,000万ドルまで引き上げることを発表した。これに伴い、該当する事業については、16年7月1日より下記を含む数々の税制優遇措置を受けることができる。

•17年6月30日までは2万ドル以下の資産の購入については一括控除でき、それ以降については1,000ドル
•コンプライアンスに基づいた棚卸資産においての簡易法など
•簡略的なATO算出による分割納税の支払
•GSTの現金主義算出法及びATO算出によるGSTの分割納税の支払の選択
•さまざまな起業費用の一括控除
•前払金12カ月の規定
•17年4月1日より適用されるFBTにおける税制優遇措置

なお、CGTの小規模事業優遇措置については引き続き、現行の200万ドル売上高基準が適用される。

個人所得税についての改正

個人所得税率及び所得基準について

課税所得(AUD) 税率(2016 / 17)
0 – $18,200 ゼロ
$18,201 – $37,000 19c for each
$1 over $18,200
$37,001 – $87,000 $3,572 plus 32.5c for each
$1 over $37,000
$87,001 – $180,000 $19,822 plus 37c for each
$1 over $87,000
$180,001 and over $54,232 plus 47c* for each
$1 over $180,000

*Rate inclusive of 2% temporary budget repair levy
Rates do not include the Medicare Levy of 2%
Source: Budget Paper 2016-17 No.2

現在の経済状況のなかで課税枠の押し上げ要求に対応するため、政府は最低限の改正として個人所得税率32.5%の所得基準枠を16年7月1日(選挙前日)より8万ドルから8万7,000ドルまでに引き上げることを発表した。メディケア税免除を受けれる低所得者の所得上限額は15/16年度より調整される。高所得者については、18万ドルを超える所得に対する時限的2%の予算均衡税の延長は行わず、当該時限税は17年6月30日をもって廃止される。

17年7月1日よりGSTの低額非課税枠の廃止

非居住者の事業者はネット販売におけるGSTの納税義務が発生する。政府は15年8月に発表した通り、主にネットで購入し輸入される物に対するGSTの低額非課税枠を廃止する意向を再確認した。これにより、17年7月1日から1,000ドルの非課税枠が廃止され、非居住者の事業者はGSTを消費者から徴収し納税することが求められる。ただ、海外事業者に対する同措置の法令遵守に向けた実務的な詳細や、自主的にGST登録した海外事業者が販売した物の関税処理の取り扱いについては発表されていない。

デジタル通貨のGST取り扱い

今回の予算案の中で具体的には示されなかったが、同予算案が発表された同じ日に財務省はデジタル通貨(例:ビットコイン)に対するGSTの取り扱いについてのディスカッション・ペーパーを発表した。同ペーパーにはビットコインを通常の通貨と同じ扱いにするようGST制度の改正を挙げている。現在、オーストラリアではデジタル通貨はGSTが発生するため、この改正は今後オーストラリアの起業家が世界のフィンテック市場で対等に競争できるようになるために必要である。消費税やVATなどを導入している他の国では既に通常の通貨と同じ扱いにしておりオーストラリアは遅れをとっている。

中小企業基準値拡大によるGSTへの影響

対象企業は簡素化メソッドの選択が可能となった。中小企業の定義変更(該当企業は年間売上高1,000万ドルまで)により、16年7月1日から様々なGST優遇措置を利用することができる。この措置の中にはGSTを現金ベースで勘定することや前年度の実績額をベースにした分割納付が可能となる。また、簡素化したBASフォームの導入も16年7月1日から試験的に導入することを予定している。

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