混迷深める連邦上院

政局展望

混迷深める連邦上院

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

家族優先党所属でSA選出のデイ連邦上院議員と、極右政党ワンネーション党所属でWA選出のカールトン連邦上院議員の2人の議員資格に疑義が持たれており、連邦政府は、今年7月2日の上院全数改選選挙での両議員の当選が有効であるか否かについて、連邦最高裁判所内に設置された選挙結果訴訟裁判所(Court of Disputed Returns)に判断を仰いでいる。裁判所の判断によっては、上院の混迷が一層深まる可能性もある。

議員資格

豪州連邦憲法の第44条には、連邦上院議員もしくは下院議員として選挙され、または出席することができないケースがいくつか列記されている。上記選挙結果訴訟裁判所が連邦最高裁判所内に設置され、判断が最高裁の判事によって下されるのも、議員資格、要件が連邦憲法で規定されているからに他ならない。議員となることが妨げられる人物とは、要するに、外国のスパイ、犯罪者、破産者、公務員、そして政府と金銭上の利害関係を有する者、の5つのケースである。

具体的には、第44条の第2項では、「反逆罪により公権を剥奪(はくだつ)された者、または連邦法もしくは州法により処罰される犯罪を犯し、1年以上の懲役に処せられた者、刑に服し、もしくは服すべき者」、同条の第3項では、「破産し、または支払い不能となった者で免責を受けない者」、そして第5項では、「契約に基づき、連邦の公務と直接または間接に金銭上の利害関係を有する者(25人以上で組織する会社の一員として、かつ他の社員と共同してする場合を除く)」は、それぞれ議員資格を有しないと規定されている。

一方、第45条には、上院議員または下院議員がその職を失うケースとして、その第1項に、「前条に掲げる欠格事由の一に該当する場合」、第2項には、「譲受、和議その他の方法で、破産または支払い不能となった債務者に関する法律による救済を受けた場合」と規定されている。

デイのケース

議員資格に疑義が持たれているデイ連邦上院議員(左)とカールトン連邦上院議員
議員資格に疑義が持たれているデイ連邦上院議員(左)とカールトン連邦上院議員

まずデイのケースを見てみよう。デイは10月17日に、デイの経営する住宅建設企業が倒産する見込みであることを理由に、いったんは連邦上院議員からの辞職を表明したものの、前言を翻して、少なくともしばらくの間は上院議員に留まり続けると宣言していた。

変節の理由としてデイは、保有する住宅建築企業の資金繰りに目処が付く可能性のあることを挙げていたが、結局、目処が付かず、11月1日には議員を辞職している。当初、デイの事件に関し注目されたのは、第44条第3項問題、すなわち、仮にデイが破産者となった場合に、デイが議員資格を失うことであった。ただ、デイは破産者となる前に議員を辞職したことから、第3項はもはや無関係となった。

ところがデイに関し、新たな憲法上の問題が浮上したのである。それは、第44条の第5項に照らして、そもそも7月の上院選挙でのデイの当選は有効であったか否か、という問題である。今度はデイが、間接的にではあるものの、連邦と金銭上の利害関係を有し、したがって、第5項に抵触していたとの疑念が持たれているのだ。

その理由は、2013年9月の上院半数改選選挙で初当選を果たしたデイが、SAのアデレードに自分が保有する、しかも、それまでビジネスに利用してきた建物の一部を、地元選挙区事務所として使用することを保守政府に強く要望し(注:担当は連邦予算省。選挙区事務所の賃貸料は公費で賄われる)、実際に使用してきたためであった。デイの要望については、第5項への懸念から予算省は反対であったが、当時のアボット保守政府は、政府にとってのデイの重要さに鑑み(注:元自由党員のデイは、上院「その他」議員の中でも最も保守政府寄りの議員であった)、デイに対しては甘い姿勢を採ってきたとされる。この点を捉えて野党労働党は、デイに関する憲法上の問題を認識していながら、上院での「票のために」見て見ぬふりをしてきたとして、政府を攻撃している。

実は同建物は、その後デイのビジネス・パートナーに売却されており、また手続き上の問題もあって、政府はこれまで同選挙区事務所の賃貸料も支払ってはこなかった。そこで、今年8月4日に、SA州での最下位当選を確実にしたデイが、改めて賃貸料の支払いについて、新担当大臣となった自由党のライアンに要請したのだが、ライアンは第5項に抵触する可能性を強く懸念して、法律的助言を求め、その結果、抵触の疑いが濃厚となったため、一挙に政治問題化した次第である。

なお建物を売却したデイだが、同建物を建設する際に銀行から借り入れた資金の返済義務は、引き続きデイが負っているとされる。

そのため、依然としてデイは同建物に金銭上「関与」しており、したがって賃貸料を払う政府とも(注:上述したように、実際には政府から金は流れていなかったが)、間接的な金銭上の関係を保持していると解釈される可能性があるのだ。

カールトンのケース

一方、極右政党ワンネーション党のカールトンのケースだが、デイと同じくビジネス・マン出身のカールトンの場合も、デイと同様に相当な負債を抱えており、そのため、憲法第44条第3項で規定された破産者となる恐れもあるとされる。なお、カールトンの財政問題を初めて指摘し、議員資格の剥奪を訴えたのは、カールトンと仲違いした元ビジネス・パートナーであった。

ただ、カールトンに関してより問題視されているのは、第44条第2項に抵触して、7月選挙での当選が無効と最高裁に判断される可能性である。カールトンは、かなり他愛の無い窃盗罪で有罪となったものの、その後、それが取り下げられたという経緯がある。ただ7月2日の連邦選挙の時点では、懲役1年以上の判決となる可能性があったことから、第2項に抵触する恐れが取り沙汰されているのだ。仮に最高裁が当選を有効と判断した場合には、当然の事ながら、カールトンは上院議員を続けるし、一方、無効となった場合は、WAの投票分の内、カールトンの得票分が除外された上で、再カウント、再集計されることとなる。ただ、デイのケースとは異なり、おそらくは再集計の結果も、7月の選挙で落選したワンネーション党の同僚WA候補が、繰り上げ当選になるものと予測されている。

附言すれば、ワンネーション党は深刻な脆弱要因を抱えているが、今回の一件に絡み、カールトンとワンネーション党党首のハンソンとの関係が、齟齬を来たしているとされる。

当面の上院の情勢

最高裁判所の判断がいつ公表されるのか定かではないが、ここで、当面の上院の情勢を眺めてみよう。まず、8月4日に最終確定した新上院の政党勢力分布は(注:新上院の任期開始は7月1日)、定数76の内の30議席が与党保守連合で、野党労働党は26、環境保護政党のグリーンズ党が9、ハンソン党首を含む極右政党のワンネーション党が4、ゼノフォンを含むニック・ゼノフォン・チームが3、そして家族優先党のデイ、自由民主党のレオンヘルム、ジャキー・ラムビー・ネットワークのラムビー、そしてデリル・ヒンチ公正党のヒンチであった。既存3大政党(注:保守連合、労働党、そしてグリーンズ党。ただ保守連合は自由党と国民党との連立であることから、正確には既存4大政党)以外の「その他」議員が、合計で11人いたわけで、この内のゼノフォン、デイ、レオンヘルム、ラムビーの4人は再選組で、残りの7人が初当選組であった(注:ただし、ワンネーション党党首のハンソンは、ハワード保守連合政権が誕生した1996年3月の連邦下院選挙で初当選し、下院議員を1期だけ務めた経験がある)。

さて、上院で政府法案を可決させるためには、上院定数の半分プラス1票以上、すなわち最低でも39票が必要となることから、与党は過半数には9議席も不足していた。なお、下院議長とは異なり、上院議長は一般採決に参加するものの、同じく下院議長とは異なり、可否同数の際のキャスティング・ボート行使権は持っていない。そのため、上院で可否同数の場合には、法案は自動的に否決となる。

一方、ショーテン率いる野党労働党も、また「過激な」グリーンズ党も、今後も基本的には「ネガティブ/反対路線」を続けるものと予想されることから、両党がそろって政府法案に反対した場合には、保守政府は11人いた「その他」議員の内、少なくとも9人から支持を獲得する必要があった。今回デイが議員を辞職したことで、当面の間「その他」議員は10人となるが、デイが最も保守政府寄りであったことから(注:親保守政府のデイが「その他」議員のムード作りに一定の貢献をしてきたことも無視できない)、確かに、デイの辞職は政府には残念ではある。

ただ実のところ、「数字上」の影響は必ずしも大きなものではない。というのも、デイの空席が埋まるまでは、上院議員の総数が75となるため、法案の可決に必要な過半数は、これまでの「39以上」から、今後しばらくは「38以上」へと低下するからだ。要するにターンブル保守政府は、労働党とグリーンズ党が政府法案に反対する状況においては、これまでの「その他議員11人中の9人」から、今後は「その他議員10人中の8人」の支持を獲得すれば良いこととなる。これは、必ずしも政府にとって状況が悪化することを意味するものではない。

ただし、不確定要因が1つある。それは、カールトンが最高裁の判断が下されるまで、今後上院での法案採決には加わらない可能性も示唆していることだ(注:カールトンには引き続き議会に出席し、投票する権利がある)。その場合、政府は「事実上その他議員9人の中から8人」の支持を獲得する必要があり、余裕がほとんどなくなってしまう。ただ、保守政府の法案に最も批判的で、最も頻繁に反対するのは、再選されたTAS選出のラムビー議員のみで(注:かつてはパーマー連合党PUPに所属)、それ以外の議員は交渉次第で政府法案を支持する可能性は十分にある。要するに、短期的な状況に関する限りは、今回のデイとカールトンの一件で、上院の情勢が政府にとって絶望的となったわけでは決してない。

当選無効のケース

ただし、既に議員を辞職した後とは言え、デイの当選の有効性に関する最高裁判所の判断は重要である。その理由は、今次上院選挙でのデイの当選が有効と判断された場合には、デイの後任は、通常通りの方法により選出されるからだ。

すなわち、任期の中途で空席が生じた際、下院議員の場合には当該選挙区で補欠選挙が実施されるが、上院の場合は、空席を作った上院議員が前回の上院選挙で当選した際に所属していた政党から、自動的に後任が任命されるのだ(注:例えば、労働党上院議員が離党してから無所属議員となり、その後任期中途で引退した場合も、後任は労働党から自動的に選ばれる)。言うまでもなく、この場合には、デイの後任はデイが所属する家族優先党の内部で決定されることとなる。

なお、元々連邦上院とは「州権擁護」のために設置された院で、上院議員も州の代表であるため、後任議員は当該州議会の認証を受ける必要があるが、これは儀礼的なものに過ぎず、議会は「ラバー・スタンプ」で後任を認証する。これに対して、仮に最高裁がデイの当選は無効であると判断した場合は、7月の上院選挙でのSA投票分が、デイの得票分を除外した上で再カウント、再集計されることとなり、その結果、繰り上げ当選者が誰になるのか予測することは困難となる。

家族優先党はせっかくの「指定券」を失う一方、わずか1議席とは言え、その後の上院の政党勢力分布が変化する可能性があるのだ。例えばSAでの再カウントの結果、7月の選挙で落選した労働党もしくはグリーンズ党の候補が、繰り上げ当選を果たすことも有り得る。その場合、政党勢力分布は、労働党・グリーンズ党が合計で36議席、保守連合30、そして「その他」は10となり(注:ワン・ネショーン党はカールトンの続投か、あるいは再カウントとなっても議席を保持する見込み)、野党勢力は「その他」の2議員を取り込むだけで、上院の半数ちょうどの38に達し、政府法案を否決できることとなる。

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