自由党の勝利に終わったTAS州及びSA州選挙

自由党の勝利に終わったTAS州及びSA州選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

3月3日に実施されたTAS州選挙では、政権第1期目であったホッジマン自由党政権が勝利を収め、一方、3月17日に実施されたSA州選挙では、過去16年の長きにわたって下野していた自由党が、労働党超長期政権に勝利している。しかも、いわゆる「ハング・パーラメント」(注: 2大政党のどちらも下院の過半数を制していない状況)の可能性が取り沙汰されていた中、両選挙ともに自由党が下院で過半数を制しての勝利であった。

TAS州選挙の概要

再選を果たし政権を維持したTAS州自由党のウィル・ホッジマンTAS州首相
再選を果たし政権を維持したTAS州自由党のウィル・ホッジマンTAS州首相

3月3日(土)に実施されたTAS州選挙は、大方の予想通りに、ホッジマン率いる政権第1期目の与党自由党が、議席を減少させたものの、ギリギリの過半数を制して政権を維持している。州下院の政党勢力分布は、定数25のうち13が与党自由党で(注: 選挙前は15)、野党労働党は10(同7)、そしてグリーンズ党が2(同3)となっている。

TAS州はACTと同じく、「ヘアー・クラーク制度」という選挙制度を採用している。これは、同州に存在する計5つの連邦下院議員選挙区のそれぞれから、5人ずつの同州下院議員を移譲式中選挙区比例代表制により選出するというものである。同制度のもとでは、連邦下院のような小選挙区制度での選挙とは異なり、他方で、連邦上院のような大選挙区比例代表制の選挙と同様に、小政党も比較的容易に議席を獲得することが可能となる。

そういった中、今次州選挙でホッジマンが過半数を制して再選を果たしたことは、十分に誇り得ることと言える。確かに、与党は議席数を2議席減らし、他方で野党労働党は3議席を増加させている。下院の定数がわずか25に過ぎないことに鑑(かんが)み、数議席という議席変動も重要な動きではある。

しかしながら、今次選挙で与党が議席数を減少させ、逆に野党が議席数を増加させることは、ほぼ確実視されていたことであった。

その理由は、前回の2014年3月選挙が、異例なほどの自由党の大勝利に終わったことから、今回の選挙で「揺れ戻し」が発生することは十分に予想できたからだ。しかも、反与党スウィングは小さなもので、一方、親労働党スウィングにしても、主としてグリーンズ党支持層から流れてきたものである。ただし今次州選挙の結果は、野党にもある程度は満足のいくものであった。

野党の善戦の背景には、昨年の3月に若手のホワイト女史が、TAS州野党リーダーに就任したことが大きかった。過酷な野党リーダーのポストを計8年間続け、その後4年間州首相を務めたホッジマンに比べると、さすがにホワイトに政治家としての経験が不足していることは否めない。ただホッジマンとは対照的に、「華」や「カリスマ性」があり、これが今次選挙での善戦につながったものと思われる。

ホワイトにとって、リーダーとしての正念場はこれからであろう。既に選挙を経験した現在、今後のホワイトに期待されているのは、「サブ能力」、具体的には政策策定能力での評価である。

以上、今次18年TAS州選挙は、勝利した与党自由党は当然として、敗北した野党労働党にとっても、決して大きく落胆するものではなかった。これに対して懸念すべき状況にあるのが、かなりの反スウィングが発生したグリーンズ党である。

TAS州ではグリーンズ党が常に一定数の議席を獲得するが、これも、1つには特殊な選挙制度のお陰とは言える。しかしながら、TAS州は豪州環境保護運動の発祥の地であり、これまでグリーンズ党は、同州政界ではかなりの影響力を保持してきた。そのグリーンズ党の今次州選挙での不振の背景には、確かに現在のところ、州民が強い関心を抱くような重大な環境保護関連問題が存在せず、その結果、「環境の保護者」であるグリーンズ党の存在意義が、今次選挙では薄れていたとの事情があった。

ただ、グリーンズ党の低迷の原因を、こういった特殊/例外的事情に求めるのではなく、「トレンド」と見る向きもあり、グリーンズ党としても気になるところではある。

与党自由党の勝因、あるいは野党労働党の敗因としては、主として以下の4点が指摘できよう。まず第1に、ホッジマン保守政権が第1期目の政権、すなわち、14年3月の前回州選挙で誕生したばかりの、極めて若い政権であったことが挙げられる。また14年選挙までの労働党政権が超長期政権であったとの事実も、若いホッジマン政権には一層プラスに働いたと言えよう。

第2に、ホッジマンならびに同政権が、州民の多くから積極的に評価されていたことだ。確かに、ホッジマンは「カリスマ性」をそなえた強力なリーダーとは言い難い。しかしながら、政治への強いコミットメントや人柄の良さでは定評がある。

第3に、何と言っても州経済の好調さである。つい最近までのTAS州の特徴とは、本土への人口流出や失業率の高さといった、相当に暗いものであった。ところが、例えば失業率は現在6州で下から2番目に低く、観光産業や食糧産業も好調で、ビジネス・コンフィデンスも相当に高いものとなっている。州の赤字財政も解消された。そして州民の多くが、好調な州経済はホッジマン自由党政権の経済舵取り能力の高さによるもの、との思いを抱いているのだ。経済が好調な時に、政権を交代させるべきとのムードが醸成されることはまれである。

第4点として、与野党の選挙キャンペーンの優劣、と言うよりも、野党選挙争点化戦略の失敗と、潤沢な与党自由党の選挙資金である。今次選挙キャンペーンで野党は、パブやクラブからポーカー賭博マシンを排除するとの政策を前面に掲げたが、ポーカー賭博問題はほとんどの有権者にとっては無縁なものであった。

野党は州民の多数が特段の関心を抱いていない問題を前面に掲げる一方で、多数が関心を抱く「生活関連/生活コスト問題」を結果的に無視し、その結果、肝心の統治能力を売り込むことに失敗したのである。しかも野党のポーカー賭博規制策は、当然のことながら、危機感を抱いた賭博業界から自由党への政治献金を大幅に増加させている。

SA州選挙の概要

3月17日(土)に実施されたSA州選挙は、野党自由党が定数47のSA州下院で、少なくとも24議席の過半数を制して勝利を果たしている。ラン率いるSA州労働党が政権の座に就いたのは、2002年2月であったことから(注: 11年10月より労働党州首相はウェザールに交代)、実に16年ぶりに保守政権が誕生し、そして野党自由党リーダーのマーシャルは、第46代目のSA州首相に就任した。

なお、今次州選挙で「台風の目」になると予想されていた、ゼノフォン前連邦上院議員率いる新党の「SAベスト」は、州下院で1議席も獲得できずに終わり、しかもリーダーである肝心のゼノフォンも落選するという体たらくであった。

このSAベストについて補足すると、実は半年ほど前の時点においては、今次SA州選挙では野党自由党が勝利すると予想する向きがほとんどであった。ところが昨年の10月になると、選挙の行方はがぜん不透明なものとなった。その理由は、地元のSA州で高い人気を誇り、また連邦上院議員として大いに活躍してきた「ニック・ゼノフォン・チーム」(NXT)代表のゼノフォンが、連邦政界から引退し、そして「SAベスト」なる小政党を旗揚げして、18年SA州選挙に出馬するとの爆弾宣言を行ったからであった。

そのため、次期SA州選挙の結果が「ハング・パーラメント」に陥る可能性が高まり、SAベストのゼノフォンが「キング・メーカー役」を果たすシナリオまでが取り沙汰されたのである。

それどころか、昨年の12月に実施されたニューズ・ポール世論調査では、SAベストが政党支持率で実に32%を獲得し、一挙に2大政党を凌駕している。しかも「好ましい州首相」の項目でも、ゼノフォンは46%を獲得し、現役のウェザール州首相や野党リーダーのマーシャルを大きく引き離している。世論調査の「数字だけを見る限り」、ゼノフォンが次期州首相に就任するという可能性まで出てきたのである。

ただし、年が明けて3月の本選挙が近づくと、この「ゼノフォン・フィーバー」にも大きな陰りが生じている。そのため、選挙の最終週に入ってからは、SAベストに対する当初の過剰な期待、予想も雲散霧消していた。しかしながら選挙までは、依然としてSAベストが下院で何議席かを確保すると見られていたし、あるいはSAベストからの選好票の流れが、いくつかの重要選挙区の結果にインパクトを与え、したがって選挙帰趨(きすう)そのものに重大な影響を与える可能性も予想されていた。ところがふたを開けてみれば、今回の選挙に影響を与えたどころか、SAベストはほぼ惨敗に終わったわけである。

その理由、すなわち、今年の2月ごろを境にして、SAベストへの評価がかなりの勢いで低落した理由はいくつかあるが、最大のものは、結局、SAベストが単なる素人集団に過ぎず、「まともな政党」あるいは検討/評価に値する政党と見られなかったことが大きい。この点では、旗揚げ当初の同党への高評価、高人気が逆に災いしたと言える。

というのも、一時期SAベストがSA州下院で第1党となるシナリオまでが取り沙汰されたために、当然のことながら、SAベストに対するメディアならびにSA州民の関心が高まり、結果的に、同党は「精査」に晒されることとなったからだ。ところが、SAベストがこういった精査に耐えられるはずもなく、一部有権者からは「冗談政党」、精々(せいぜい)のところ「抗議政党」に過ぎないとみなされたのである。いずれにせよ、攪乱(かくらん)要因であったSAベストの影響が「中和」、払拭されたため、野党自由党が過半数を制して勝利したことも至極当然のことであった。

ここで野党自由党の勝因、というよりも与党労働党の敗因を見てみよう。そもそも連邦ばかりか州などのレベルでも、豪州で政権が交代する要因、パターンとしては、大きく3つがある。具体的には、①「イッツ・タイム・シンドローム」の発生、②野党の政権担当能力の方が明らかに上に見える、そして③政府を懲らしめたいという、多数の有権者の強い願望がある、といった3要因、パターンのうちの少なくとも1つが当てはまる場合とされる。

何と言っても、今次SA州選挙における与党労働党の最大の敗因は、この「イッツ・タイム・シンドローム」の発生であった。これは有権者の間に醸成される、そろそろ政権の替え時とのムードを指す。一般に豪州国民の気質とされるのは現状維持志向の強さで、実際に選挙で政権第1期目の政権が敗北することは極めてまれである。ただ、やはり豪州国民にとっても、政権の長期化はやはりマイナス要因ではある。しかも14年のVIC州選挙、そして15年のQLD州選挙と、立て続けに1期目の政権が敗北するなど、最近では、同シンドロームが発生するまでの期間も以前より短縮しつつある。

そういった中、SA州で前回州政権が交代し、その結果労働党政権が誕生したのは16年も前の話、との事実はやはり重かったと言えよう。ただ、今回の与党労働党の敗北には、上記の③も関係している。確かに、敗北したとは言え、獲得議席数から言って労働党が惨敗したとはみなせない。

しかしながら、それは上記の②の欠如、すなわち、マーシャル率いる野党自由党の評価が決して高くはなかった、それどころか、「並みのレベル」かそれ以下に過ぎなかったことのお陰であり、換言すれば、野党の評価が並みのレベルを超えるものであった場合には、今次選挙でウェザール労働党政権は惨敗していたものと思われる。

その背景には、同労働党政権の数々の失政、スキャンダルの存在、具体的には、大病院建設プロジェクトにおける大幅なコスト、工期の超過、医療過誤問題、児童福祉施設や老人看護施設でのスキャンダル、そして電力政策などにより、労働党政権の統治能力に重大な疑義が呈されていたとの事情がある。

言うまでもなく、ウェザールの失政の内でも最大級で、最も政府にダメージを与えたのは、風力発電に依存し過ぎたウェザールの電力政策であった。今回の選挙では、さまざまな生活コストにあえぐ州民が電力行政の現状に強い不満を抱き、問題を現出させたウェザールに対し鉄槌を下したのである。

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