【政局展望】「政治」重視の2015年連邦予算案

政局展望

「政治」重視の2015年連邦予算案

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

 

5月12日(火)、アボット率いる自由党-国民党保守連合が、同政権としては2回目の来年度連邦予算案を公表している。昨年の5月に公表された初年度連邦予算案が、合理的な政策を追求したものではあったものの、政治的には失敗であったことを受け、今回策定された15年連邦予算案は、極めて「政治的」な内容のものになっている。その最大の政治目標とは、アボット個人や保守連合政府の「サバイバル」、すなわち、直接には世論調査での支持率改善を目指したものにほかならない。そのために、昨年の予算案ではあれほど強調していた歳出削減の主張は一挙に鳴りを潜め、むしろ財政状況の現状を矮小化しつつ、あたかも選挙直前予算案のような、かなり寛大な有権者懐柔策が盛り込まれている。今次連邦予算案の特徴、ポイントとしては、大きく以下の3つが指摘できよう。

「サバイバル」を最優先にした予算案

周知の通り、14年予算案については、公約違反であった数多くの歳出削減策への批判に加えて、国民の間に「社会的弱者に厳しい不公平な予算案」とのパーセプションが醸成されていた。そして、予算案への批判を背景にアボット与党への支持率が低迷する中、激戦区を抱える与党陣笠議員達のアボット指導部に対する不満も高じていたのだが、そういった最中に発生した一大政治事件が、今年1月のQLD州選挙での与党自由国民党のまさかの敗北であった。驚天動地の同選挙結果は、政権は連続2期続いて当然との豪州の政治常識を覆すもので、それを契機に与党自由党内の一部議員はパニック状態に陥り、その結果、不甲斐ないアボットの党内支持基盤は一挙に脆弱化して、あれよあれよという間に、自由党議員総会で党首不信任動議が採決に付される事態となったのである。自由党の「お家騒動」は、アボットばかりか、政府にもダメージを与えるものであった。以上の点を深く認識、反省したアボットやホッキー財務大臣、ならびに保守政府は、15年予算案の本音での最大目標を世論調査の改善に置き、そのための予算案を策定している。内容は、何よりも14年予算案内の「不公平」施策の破棄である。

具体的には、医療分野では「一括請求制度」、開業医での受診や検査に際し、共同拠出方式を導入するとの策を破棄したこと、老齢者分野では、老齢年金給付額のインデクゼーションを、現行の「男性フルタイム就業者の平均週給」との連動から、より上昇率の低いCPIインデクゼーションに転換するとの策を断念したこと、そして福祉/社会保障分野では、例えば30歳未満の失業手当て申請者に6カ月の受給待ち期間を設定するとの策を、25歳未満で受給待ち期間は4週間のみに変更したことなどであった。破棄宣言とはオリジナル公約の遵守を意味するゆえに、国民からも歓迎されている。アボット政府は、短期的に痛みを伴う大きな改革にはもはや腰が引けており、財政再建に資する行財政改革を追求するにしても、より漸進的な、より長期にわたる改革を志向していると言える。それと同時に政府は、「社会的弱者に優しい」とのイメージ作りにも躍起となっている。その方策の1つであるのが、15年予算案の中でも最大の「目玉」である、小規模事業体/中小企業向けの寛大な施策である。しかも、対象となる小規模事業体の定義は、年間の総収入/売上げが200万ドル未満と、かなり高めに設定されている。

同政策は主として、①法人税率の1.5%の低減、②非法人形態の事業体に対する5%ディスカウント減税、③加速(即時)償却、の3つから構成されているが、実はこれら小規模事業体政策は、政府が「一石二鳥」どころか、「一石三鳥」を狙ったものである。すなわち、政府は同政策を通じて、「社会的弱者に優しく公平な政府」とのイメージ作りのほかにも、伝統的な支持基盤への懐柔(注:自由党といえば大企業、大ビジネスの権益を代表しているようだが、実は小規模事業主や自営業には自由党支持層が多い)、そして財政再建の推進、少なくとも財政再建の「理論武装」を行おうとしている。さらに政府は、14年予算案への反省、例えば突然、かつ一方的にタフな節減政策を公表し、国民の怒りを惹起したことなどから、いくつかの戦術転換も行っている。その中でも最重要なのが、予算案を「売り込む」ための努力で、まず政府は、国民が予算案の内容を充分に「咀嚼」できるように、今次予算案に盛り込まれた国民受けする重要政策の内容を、予算案公表日の前に正式に公表するか、その内容をメディアに漏洩している。また昨年は、「セールス能力」の低いアボット、ホッキー、そしてコーマン予算相の3人だけが担当してきた予算案の「売り込み」活動を、今回は政策の詳細に通じた、かつ「売り込み」能力の高い担当大臣にまで広げている。最後に政府は、標語、スローガンを変更しつつ、ポジティブ・イメージを熱心に振りまいている。14年予算案に関連して政府は「政府からの支援を当然視する文化、風潮を払拭する」、あるいは「財政は危機的状況で、財政再建は緊急事態」といった標語で国民を恫喝し、そのため国民の反発を強めたことから、15年予算案に関しては、「14年予算関連政策の効果が出てきた」、「中期的には比較的高い経済成長が続く」といった、明るい発言を心がけているのだ。

財政再建戦略の転換

以上のように、15年予算案は厳しい歳出削減策などは避け、それどころか、「社会的弱者」向けの懐柔/バラマキ策を盛り込んだものとなった。ただ政府としても、とりわけ自由党政権としては、国民から財政再建問題をないがしろにしているとのイメージを抱かれ、肝心の経済運営能力の評価が毀損されることはぜひとも避けたい。そもそも選挙での有権者の投票行動を決定する上で重要な要因は、国民生活に直接影響を及ぼす、与野党の経済運営能力に関する有権者の「漠然とした」評価であるからだ。

そして、一般国民の「漠然とした」評価を決めるのが、国民にとっても分かりやすい金利の水準と(注:金融政策は中央銀行である豪州準備銀行RBAの主管だが、例えば高金利に対する国民の怒りは政府へと向かう)、より重要なものとして、財政の状況にほかならない。ところが15年予算案の中で、アボット政府が国民に「恭順の意」を表するために行った重要政策の破棄、ソフト化とは、取りも直さず、財政再建のための節減策の変更、破棄にほかならない。必要に迫られたものとはいえ、目先の政治的利益を追求した、あるいは目先の個人的利益を追求したアボット政府の政策ソフト化路線は、調子に乗り過ぎれば、有権者の投票行動を決定する上で重要な与党の経済運営能力への評価を貶めるという、本末転倒の結果となる恐れがあるのだ。

したがって政府としても、財政再建を追求する、少なくとも追求していると見られることが肝要だが、ただ、現時点で再度歳出サイドを通じた財政再建は、上院の強い抵抗もあって現実的なオプションでもない。そこで、15年予算案で政府が採用したのが、歳入サイドを通じた財政再建の追求である。ところが、増税策などは歳出カットと同様の批判を惹起するし、野党時代のアボット保守連合は、ラッド/ギラード労働党政権を「重税政権」として執拗に攻撃してきたとの事情もある。そのためアボット政府は、経済成長を通じた税収入の自然増を、財政再建のための「ビークル」として位置づけるという、極めて「都合のいい」財政再建戦略へと転換している。

確かに、経済の「パイ」が大きくなれば、法人税の増収が期待できるし、また雇用が拡大して個人所得税の納税者が増加するばかりか、賃上げによるいわゆる「ブラケット・クリープ」効果により、個人所得税も増収となる。他方で、失業者の減少によって失業手当て支出の減少も見込まれる。その「プラス効果」の中でも、とりわけ政府が期待しているのが、「ブラケット・クリープ」効果による増収である。「ブラケット・クリープ」とは、インフレなどに伴う賃上げによって名目賃金が上昇し、その結果、多くの就労者の個人所得に一段高い税率が適用され、税収入が増加する現象を指す。

要するに、実質的な賃上げなしに、中・低所得層までが高税率を適用され、納税額だけが上昇することになるのだ。そこで、就労者の生活水準の低下を防ぐためにも、定期的に個人所得税の減税策を実施することが不可欠となるが、アボット政府は同効果を最大限に活用して、財政再建に役立てようとしているのだ。ちなみに政府は、「予算の将来見積もり」(Forward Estimates)の最終年度、すなわちFY2018/19に、アンダーライング(基礎)現金収支ベースでの財政赤字は69億まで減少し、翌FY19/20には黒字へと転換するものと予測している。

また政府純債務残高についても、FY16/17でGDPの18%に達するものの、それがピークとしている。ただし政府としても、歳出サイドによる財政再建をあまりに軽視すれば、これまでの主張や努力は何だったのかとの批判に晒される。そのため、14年予算案に盛り込まれたものの、上院の抵抗でブロックされてきた節減政策の内、一部については今次予算案でも保持している。

信頼性の欠如

ところが歳入サイドに強く依存した、換言すれば、持続的経済成長による税の自然増収を通じた、保守政府の財政再建戦略については重大な疑義が呈されており、これが今次予算案全体の信頼性をかなり損なっている。政府も短期的には経済の先行きに不透明感があることは認めている。しかしながらホッキー財務相は低金利の状況(注:豪州準備銀行RBAの目標金利水準は2%と記録的な低水準にある)、低燃料価格、低電気料金の状況が、早晩国内消費を喚起するとしている。また、世界景気や中国経済の状況も悪くはないし、今次予算案内の小規模事業体政策によって設備投資が活発化し、「雇用創出のエンジン」である小規模事業体の雇用インセンティブが刺激されるばかりかイノベーションや生産性の向上も期待できる上、託児所関連政策によって女性の労働力化率も上昇し、中期的には堅調かつ継続的な経済成長が望めるなどと主張している。


政府も短期的には経済の先行き不透明感を認めている(Photo: AFP)

ところが、政府が金科玉条とする連邦財務省の予測シナリオがあまりに甘い、あるいは楽観的過ぎるとして強い批判を浴びている。財務省は実質GDPを、FY2014/15で2.5%、FY15/16には2.75%、FY16/17に3.25%、FY17/18では3.5%、そしてFY18/19も3.5%と予測しているが、頼りの中国景気が後退気味であることから(注:豪州資源部門の稼ぎ頭である鉄鉱石の価格の急落も、供給が過剰気味であることに加えて、中国の需要が後退しているためでもある)、財務省予測に基づく政府の財政再建計画を疑問視する向きも多く、ひいては、今次予算案そのものの信頼性にも疑念の声が上がっているのだ。

確かに、これまでも財務省/政府の経済予測値は極めて信頼性の低いものであった。加えて、14年予算案時と15年予算案時とで保守政府の「レトリック」が大きく異なることも、今次予算案全体の信頼性を低めている。すなわち、昨年の予算案はその「厳しさ」の程度において、歳出に大鉈を振るって「戦慄予算案」と呼称された、96年のハワード第1次保守連合政権の初年度予算案に次ぐものであったことから、政府の「理論武装」も相当に過激なものであった。

例えば、18年振りの厳しい緊縮予算案となった理由として、アボット政府は、国民の生活水準を護るため、また高齢化社会の深化に備えるためにも、可及的速やかな財政再建が不可欠であるばかりか「緊急事態」であると強調している。また政府は、再建の主役は、労働党前政権時代の「放漫経営」によって生じた「大盤振る舞い」体質の改善、すなわち構造改革を通じた歳出の削減、抑制であると述べつつ、従来の権利を当然視する、あるいは権利を要求する時代、風潮を、機会を求める風潮に転換する必要があると説教を垂れている。

ところが、アボット政府は、今年に入ると態度、姿勢を一変させて、例えば、ほかの先進国に比べると豪州の財政状況は必ずしも悲惨なものではない、あるいは、14年予算案の重要な節減政策の多くが上院でブロックされたにもかかわらず、各種節減策が効果を上げつつある、あるいは豪州準備銀行(RBA)の金融緩和政策と整合性をとる必要があるなどと主張しつつ、財政問題の矮小化を図ってきた。言うまでもなく、政府のこういった主張は政治的要請に迫られてのものではあるが、国民を大きく混乱させるものであったし、また14年予算案ばかりか15年予算案の信頼性にも疑問符を付けるものであった。それどころか、一部の国民に「政府は国民を小馬鹿にしている」との怒りを抱かせるものでもあった。ただし、財政再建問題での政府の言動、予測はかなり「眉唾」ではあるものの、今次予算案では国民生活にダメージを与える節減策が破棄され、他方で、国民を潤す各種懐柔策が予算案に盛り込まれていることは、やはり国民のアボット政府への評価を改善するものであるとは言えよう。


政局展望

2015/16年度 オーストラリア連邦予算案の概要

EYパートナー/ジャパン・ビジネス・サービス アジア太平洋地域統括 菊井隆正

 

5月12日に連邦予算案が発表され、現在のところ、国民や産業界からおおむね評価されているとみられる。政府は、今回の予算案で、昨年国民から「不公平」と反発を買った緊縮財政を見直し、小規模事業や働く親への支援策を中心に経済回復をリードすることを掲げる。予算案は、オーストラリア経済が資源から非資源分野にシフトし、今後3年間の非鉱業分野への投資によって経済成長を牽引すると予想している。

今回の予算案では歳出削減よりも生産性および労働参加率の改善に向けた取り組みに重点を置いているが、これは歓迎すべき施策である。小企業および新興企業は、スタートアップに対する減税、加速償却、即時償却の優遇措置を受けるとともに事務手続が抑えられ、これら企業による購買意欲向上により幅広い業種への経済波及効果が期待される。

加えて、歳入漏れを防ぐために予算案は、多国籍企業による租税回避に対処することを強調し、海外および国内のデジタル・コンテンツ供給者間の消費税(GST)の条件の均等化を草案として含めている。

一方で、予算案は施策の影響が及ばない外部要因に大きく依存したものになっているのでインフレ率は低原油価格に影響を受けるとともに、経済成長は中国、アメリカ、日本など主要な貿易相手国の景気改善に依存している。さらに歳入は名目所得の増加に応じて所得税率が高くなるブラケット・クリープ現象によりもたらされ個人所得税への依存度を維持している。

今回の予算案には大企業に対する施策は限られ、大企業が置かれている環境が大きく変化することはない。金利や為替の動きによる恩恵だけでは大企業の投資を呼び込むには十分ではない可能性があり、政府が確信している通りに鉱業分野から非鉱業分野における投資シフトを実現できるかが課題だ。先行き不透明な世界経済および国内の高失業率を背景にすると一段と道のりの険しさが増している。

経済

主要な指標

赤字削減のペースは大きく遅れている。オーストラリアの経済観測が悪化しているが、財政が比較的強固であることを考えると、今回のもっと緩やかな赤字削減計画はオーストラリアの経済的ニーズに対応したものといえる。

オーストラリア政府の2015/16年度の現金収支は、14/15年度の年央経済財政見通しの411億の赤字に対し、対GDP比2.1%の351億ドルの赤字である。

財務相は、18/19年度までの4年間で合計820億ドルの赤字(現金収支ベース)を見込んでいる。輸出は15/16年度に5%増と予想され、16/17年度に6.5%増と大きな伸びが予想される。輸入は15/16年度に1.5%減、その後、16/17年度に2.5%増が予想される。

財務省およびオーストラリア準備銀行(RBA)の予想はいずれも、15/16年度の失業率が6.5%、16/17年度の失業率が6.25%である。インフレ率は、15/16年度に2.5%となり、18/19年度まで2.5%に留まると予想される。

専門家は政府が提供した予算案見積りの根幹に対する楽観的な見通しに疑問を呈している。特に、オーストラリア政府は、国内総生産(GDP)が2.75%となり、その後、18/19年度までに3.5%まで徐々に上昇するとしている。

成長分野への優遇措置は歓迎する

予算の中で成長する関心分野として、労働人口の増加促進、小規模事業に対する税制優遇措置を通した個人消費の促進、失業手当への迅速な手続き、インドへの輸出拡張に伴う既存の貿易相手国への輸出増加がある。

ビジネスと消費者信頼感の後押し

この予算案における成長支援への対策は歓迎する一方、マクロ経済要因がオーストラリアのビジネス、消費者により多く影響するであろう。消費者やビジネスは消費活動を活性化するかまたは貯蓄に走るのか。この予算は、ビジネスと消費者信頼感を後押しできるかが課題である。

法人税務

オーストラリアは現在、税制改正白書や連邦制度改正白書など各種改正の準備が別途行われているため、当該予算案は根本的な長期的税制改革には焦点を当てていない。それよりも、当該予算案の焦点は税制の保全と公平性を高めるための投資および税制上の改正措置案となっている。これは、小規模事業への減税、多国籍企業に対する租税回避防止規定、海外のデジタル・コンテンツ供給者に対するGSTという形で発表されている。オーストラリアの大規模事業については法人税率の削減もなく、大きな税制改正の提案もない。

多国籍企業に対する租税回避防止規定

政府は、多国籍企業による租税回避と見受けられる行為に対処するために租税回避防止規定(Part IVA)を改正することを発表した。その草案は、明らかにアメリカのテクノロジー企業を直接標的にした対策であるが、必然的にオーストラリア市場で事業を営む多くの諸外国の企業にも幅広く適用になるであろう。この新規則は、全世界における売り上げが年間10億ドル(会計基準に基づき算定される)を超えるグローバル企業グループに影響を及ぼす。

当該改正は、経済協力開発機構(OECD)のBEPSプロジェクトの結果に先駆けて行われた。また、税務当局がテクノロジー・セクターにおいて公表し、注目を浴びているすべての税務調査案件の結果を待たずして行われた。オーストラリアで事業を営む多国籍企業が適切な税金額を支払っているか否かを確証していないため、この草案による税収額は算定されていない。

重要なのは、この改正がイギリスの迂回利益税(Diverted Profit Tax)と類似する改正案を作り出すわけではないことである。Part IVAは、オーストラリアのさまざまな2国間租税条約より優先して適用されることが可能であるが、これらの新規則は既存のオーストラリア税法上の枠内で運用される。これは、どのように規則が適用されるかを決める上でとても重要なことである。

これらの改正には多くの疑問が残るが、今後のコンサルテーションおよび税務当局からのガイダンスなどにより明らかにされることが期待される。

移転価格文書化および報告義務の拡大

政府は、移転価格文書化についてOECDガイダンスに基づいた規準を導入する。グローバルの売上が10億ドル以上でありオーストラリアで事業を行う大規模企業は2016年1月1日以降に開始する課税年度より、以下を税務当局に提出しなければならない。

 

・ グローバルな事業活動の内容、所得の所在地および納税額に関わる情報を含む国別報告書(Country-by-country report)
・ グローバルな事業活動、組織図および移転価格方針の概要を含むマスター・ファイル
・ ローカル納税者の関係会社取引に関する詳細な情報を提供するローカル・ファイル

これは、現行のオーストラリア移転価格税制上必要とされる移転価格文書化義務を超えるものである。対象企業は、義務を遵守できるよう準備を進める必要がある。導入スケジュールや提出された情報が他国の税務当局とどのように共有されるか、などに関する行政上のガイダンスは追って発表される。

OECDのBEPSプロジェクト

オーストラリアは、多国籍企業によるBEPS(課税基盤侵食および利益移転)問題に対するOECDイニシアチブに積極的に貢献しており、OECDは14年中に行われた作業を基礎とする各種報告書を今後15年後半に発表する予定である。OECDによる提案はオーストラリアにおいても政策的検討が必要であるが、これについて政府は以下を確認している。

 

・ 過少資本税制に関しては、OECDのBEPSアクション項目4に関する結論次第であるが、14年に既に規定の強化をしており、直近で追加の改正は提案されていない

 

・「誇張された移転価格設定」はOECDが注目している課題の1つであり複数のBEPSアクション・プラン項目において国際税務規定の包括的な見直しが行われている。オーストラリアは13年の改正の結果世界でも成功事例として認められる移転価格税制が導入されており、税務当局による税務調査が進められている。オーストラリアはこれらの規定についてイギリスを含む他国との協議を行う予定である

デジタル商品およびサービスのオフショア供給におけるGST

予算では、海外の供給者からオーストラリア内で提供されるデジタル商品やサービスのGSTに関する草案が出されている。草案はGST法の修正を含めており、GST法上オーストラリアの消費者に供給されたオーストラリアに関連する商品や不動産以外のすべての供給物について、GST課税対象とするというものである。

これによって、映画、音楽、アプリ、ゲーム、Eブックのストリーミングやダウンロード、コンサルティングや専門的なサービスのような、ほかのサービスは、現地もしくは外国の供給者によって提供されるに関わらずGST同等の対応を受けることになるであろう。

また、ある状況においては、GST納税義務が、デジタル商品供給者から電子販売サービスのオペレーターに転換する可能性もある。この草案は、またGST法を改正して、オーストラリアの間接税に関連した供給物を提供する事業に対するGST登録や納税手続の変更を可能にする。

少額取引に関する非課税枠には変更なし

少額取引は引続き1,000ドル未満の物品の輸入はGST非課税扱いである。

新規及び小規模事業に対する施策

年間売り上げ200万ドル未満(関連企業の売上も含む)の新規および小規模事業は雇用と小規模事業(Jobs and Small Business)政策の一環で減税措置および加速減価償却を利用することが可能となる。2015年7月1日から下記の方法により減税対象となる。

● 小規模事業を対象に法人税率を28.5%に削減。ただし、適格配当は継続して30%でのフランキングが可能
● 法人化していない事業に対しては、税額控除という形で1人$1,000までの事業課税額の5%割引
雇用と小規模事業政策の内訳

予算案発表時点から17年6月30日までの期間に購入した資産を2万ドル(1,000ドルから引き上げ)を上限に一括控除を可能とした。2万ドル以上の資産に対してはプールし、初年度に15%、次年度以降は30%で償却できる。小規模事業に対する今回の目玉政策は当該事業の税負担を大幅に減らし、キャッシュフローの改善また税コンプライアンスの軽減につながる。さらに小規模事業は16年4月1日から業務用に使用されるポータブル電子機器に対するフリンジ・ベネフィット税(FBT)が非課税となる。雇用主は似た機能を持っていてもノートパソコンなどのような業務用ポータブル電子機器を1点以上従業員に供与できるようになる。

その他事業向け施策

多国籍企業のみならず自主的開示

財務相は、政府が多国籍企業の透明性向上に向けた取り組みを強化していると発言しており、公正な税負担の確保またアグレッシブな租税回避を防止させる目的で大企業に対する税金情報の開示に関する規範構築に取り組んでいる。財務相はさらに当該自主的開示規範の策定を税制委員会に委ねており、政府はその進行具合と規範評価を行った上で必要であればさらに法律を改正すると発表している。

運用投資信託(MIT)の開始

新たな運用投資信託ルールは、業界に準備期間を与えるため16年7月1日から適用される。当初から導入日として予定されていた15年7月1日は早期適用の選択肢として残された。

干ばつ対応に向けた農業税ベネフィット及び肥料保管施設

新しい干ばつ対応の取り組みの下、16年7月1日より1次生産者はフェンス(耐用期間30年未満)や水施設に対する資本支出を一括償却できる。さらに1次生産者は肥料保管施設に対する資本支出を3年にわたって償却できる。当該改正は政府の「農業競争力」(Agriculture Competitiveness)白書の一環で16年7月1日より適用される。

研究開発タックス・オフセット

予算案には前回発表した研究開発費に関する施策が含まれており、研究開発税務インセンティブ率を1.5%引き下げ、連結売上2,000万ドル以下の企業に対しては43.5%、連結売上2,000万ドル以上の企業に対しては38.5%が適用される見通し。このため法人税率の引き下げが小規模事業に限定されるのにもかかわわらず、研究開発税率の引き下げが実行される可能性が高い。

個人所得税

乗用車関連費用の税控除

15年7月1日よりビジネス関連の乗用車費用の控除が一部納税者に対して66セント毎キロに引き下げられる。これにより大排気量車に対する高いレートが引き下げられた。セント毎Km方式の代わりにログ・ブック方式も引き続き使用可能となる。そのほか、あまり使用されない方式は廃止される。サラリー・サクリファイスを利用した乗用車ベネフィットには影響ないが、費用清算に対するFBT額が変わる可能性がある。

個人及び家族

各所得レベル別の税収ウェイト

今回の予算案では個人所得税率に対する改正はなかった。そのため軟調な経済成長下においても賃金インフレは課税対象額を増加させ、その結果より高い税率区分の対象となる。オーストラリアの個人所得税率は所得の増加に対応して税率が高くなるよう設定されており、低所得者に対する税負担は低い一方、中間および高所得者に対する税負担は重い。全税収入に対する各所得レベルの税収ウェイトが最近ATOが発表した統計で開示されている。(右の表を参照)

ワーキングホリデーの税制上居住者区分変更

16年7月1日より税制上居住者区分を変更し、滞在期間にかかわらずワーキングホリデーを税制上非居住者扱いとする。これにより最初の1ドルの所得から32.5%のレートで課税され、オーストラリア国内で働く意欲に影響する可能性がある。

育児休暇手当およびチャイルド・ケア補助制度

政府は、国の支援を真に必要とする者に限定しコンプライアンスを高めた社会福祉システムの向上に取り組んでいる。この施策により予算見通し年度において35億ドルの歳出削減を実現する。16年7月1日より育児休暇手当(Parental Leave Pay)による二重給付を廃止することを発表。これまでは従業員は国が支給する育児手当に加え、雇用者が提供する育児手当を受け取ることが可能だったが、今回の改正により雇用者から支給を受けていない者に限定して、国の育児手当が給付される。雇用者からの手当が育児手当に満たない場合は不足分を政府が補填する。

17年7月1日より、簡略化されたチャイルド・ケア補助制度が導入される。世帯所得をベースとした単一の補助金が支給され、働いている親や仕事を探していたり、研修や勉強などの活動を行っている親も対象となる。17万ドル未満までの世帯所得の場合は補助額が拡大されると見込まれる。

そのほか、フライイン・フライアウトの取り扱い法の改正により特定地域タックス・オフ・セット(Zone Tax Offset)の適用が限定的になる。また、高等教育ローン・プログラムの適用が拡大されることにより個人所得税上の取り扱いも改正される。

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