【第3回】ラグビー五郎丸歩、世界への挑戦 – 歴史を刻んだ夜

ブリスベンから現地レポート

ラグビー五郎丸歩、世界への挑戦

Photo: Nino Lo Giudice
Photo: Nino Lo Giudice

第3回:歴史を刻んだ夜

五郎丸歩(クイーンズランド・レッズ/30)のスーパー・ラグビー(SR)挑戦も早3カ月ほどが過ぎようとしている。4月に入って、ようやく初勝利を挙げたレッズ。その相手はなんと昨年王者のハイランダーズ。レッズの今季初勝利の夜は、日本ラグビーにとってのエポック・メイキングな夜でもあった--。取材・文=植松久隆(ライター/本紙特約記者)

3月19日、ニュージーランドの強豪ブルーズをホームに迎えての第4節。勝利目前まで迫ったレッズは、残り6分で10点差を追いつかれる痛恨のドロー。またもや、勝利の美酒はお預けとなった。

勝てそうで勝てないレッズには、勝利をつかむ、もう“ひと押し”が必要だ。接戦になればなるほど、キックが勝負を決める重要な要素となる。だから、ピッチ上の両軍は接戦の終盤戦では、何とかゲームの流れを引き寄せ、展開のあやも味方に付けて、決定的なキックを狙える局面をとらえようとの駆け引きを行う。

レッズのベンチには、世界に冠する名キッカーの五郎丸が控える。しかし、その名手も出場ができなければ、ゲームの流れさえ引き寄せられない。レベルズ戦、ブルーズ戦ともに、スタンバイ後、サイドラインで自分の見せ場が来るのを待った五郎丸だが、結局、出場機会は回ってこず、2試合連続でサイドラインでノーサイドの笛を聞くことになった。

■3月20日(日)ジャパン&フレンズ・デー@ゴールドコースト

「五郎丸不出場」は、会場に足を運んだ多くの日本人ファンもガッカリだが、やはり一番悔しい思いをするのは、五郎丸本人。試合に出られないことでのストレスや体調維持の難しさなど、日本では経験することのなかった負担が生じる。

五郎丸には、少しリフレッシュが必要。そんな中、試合翌日にも関わらず、招待されたゴールドコースト日本人会主催のジャパン&フレンズ・デーに参加した。

ホールを埋めた日本人ファンが見つめる壇上での質疑応答、長蛇の列となったファンの全てに笑顔でサイン、写真撮影をするのは大変だったろう。それでも、周りがほとんど日本人ばかりという環境は、良い気分転換になったに違いない。囲み取材でも「もう聞くことないでしょう」と自ら切り出し、催しの感想を聞かれて、「いや、日本に帰ったみたいな感じ。(こんなに多くの日本人を見るのは久しぶり?)相当、久しぶりですね。(中略)海が近いので、帰りに少し海を見て帰ろうかな」と答えるなど、いつにないリラックス・モードの五郎丸が見られた。

■3月27日(日)SR第5節対ワラタス戦/ブリスベン(●13-15)後半73分より交代出場

1カ月前のSR開幕戦で10-30と大敗を喫したワラタスと1カ月を経てのリターン・マッチとなったこの試合。州同士のライバル意識が強いこの両軍の対戦は、“ダービー・マッチ”という位置づけになる。試合は、ホームのファンに今季初勝利を届けたいレッズが、序盤から試合の主導権を握る。前回対戦とは全く手応えが違う相手にワラタスも当初は押されるも、すぐに反撃して、前半は7-10とワラタスが逆転して折り返した。

後半に入っても、一進一退のシーソー・ゲームが続く。両者ががっぷり4つに組む拮抗した試合が動いたのは、69分。レッズの反則で得たPGをワラタスSOバーナード・フォーリーが確実に決めて、試合をひっくり返す。

後半73分、五郎丸が交代出場で3試合ぶりの出場を果たした。しかし、ワラタスの攻撃に自陣に釘付けにされる苦しい展開のまま、試合終了。この日も五郎丸の見せ場は訪れず、またもや2点差の惜敗。これでレッズは、開幕5戦勝ち無しと長いトンネルを抜けられない。

試合後の五郎丸は、「選手である以上は1分でも長く試合に出たい」との思いを淡々と語った。自らの実力を証明して信頼を勝ち得ていくには、「試合を重ねるごとに上り調子になっている」というチームの中で存在感を示し続けるしかない。

■4月9日(土)第7節対ハイランダーズ戦/ブリスベン(○28-27)リザーブ。後半61分交代出場

ハイランダーズ戦に途中出場した五郎丸。PGは惜しくも外すも、うれしいSR初勝利となった(Photo: Nino Lo Guidice)
ハイランダーズ戦に途中出場した五郎丸。PGは惜しくも外すも、うれしいSR初勝利となった(Photo: Nino Lo Guidice)

惜敗のワラタズ戦の後、1週休み(BYE)で休養十分のレッズ。第7節の相手は昨年王者のハイランダーズ。その指揮官は日本代表次期HCに決まっているジェイミー・ジョセフ。さらには、SRでプレーする日本人選手の“先駆者”たる日本代表SH田中史明もリザーブに控えるなど、日本ラグビー界にとっては非常に興味深い対戦となった。

試合は、下馬評に反して、アンダードッグのレッズが前半から畳みかける。いったんは、22点差までリードを広げるも、後半に王者の猛反撃を受けたレッズは、終わってみれば1点差の薄氷を踏む勝利で6戦目にして今季初勝利を挙げた。

この試合の59分に田中、61分に五郎丸と相次いで出場したことで、先発していたツイ・ヘンドリックと併せSRの舞台で3人の日本人選手が同時にピッチに立った。チームの今季初勝利、自身のSR初勝利ということで、ツイとともに上がった壇上では笑顔が弾けた。さらに、「先駆者の田中選手の出場試合に自分も出られたことをうれしく思う」と先輩へのリスペクトも忘れなかった。

■4月11日(月)南アフリカ遠征出発前@ブリスベン国際空港

土曜日の夜の初勝利の余韻が残る月曜日の早朝、レッズの選手たちが眠そうな顔で出発ロビーに姿を現した。五郎丸も、機内で“爆睡”できるように前夜はかなり夜更かしして「時差調整」をしてきたとのことだが、メディアの前に立つときりっと表情が締まるのはさすが。土曜の初勝利の後は、「すぐに帰って寝ました。(夜の街に繰り出した一部の)チーム・メイトとはテンションが違いましたね(笑)」。それでも初勝利は、若いチームに好影響を与える。「僅差での負けが続いていたので、そこで1つ勝って自信になる。(南ア遠征の)相手は強いけど、自信を持って臨める」、五郎丸はそう決意を語って機中の人となった。

サム・ケレヴィと談笑する五郎丸。今まで以上に他の選手と積極的にコミュニケーションする姿が見られる(Photo: Nino Lo Guidice)
サム・ケレヴィと談笑する五郎丸。今まで以上に他の選手と積極的にコミュニケーションする姿が見られる(Photo: Nino Lo Guidice)

この朝、囲みでメディアの質問に答える五郎丸に何人かの選手が入れ替わりでちょっかいを出しにきた。最近、練習場も含めて、このように他の選手との打ち解けたやり取りや長く話し込んだりという姿をよく見かける。これは先日、ツイが「最近、チームの皆がGOROは変わったと僕に言ってくるんだ。よく笑うようになったし、もっとリラックスした感じになってきた」と語った内容を裏付ける、五郎丸のコミュニケーション力向上の賜物だろう。ツイとチーム・スタッフのショーン・ヨシウラという2人の日本語話者は帯同するが、基本は英語だけで暮らすことになる2週間の遠征もさほどの不安はないはずだ。

■4月17日(日・豪州時間)第8節対ブルズ戦/プレトリア(南アフリカ)(●22-41)リザーブ。後半74分交代出場

南アフリカ遠征の初戦は、プレトリアでのブルズ戦。ここまで、南アフリカ・グループで3位に付ける強豪との対戦は、完全に押し負けられた。ポゼッションで相手に圧倒されて、点差を縮められないまま、相手に5トライを許す今季ワーストの大敗を喫してしまった。五郎丸は、後半74分に交代出場でウィングでプレー。次戦(23日土曜・豪州時間)、ケープタウンでの現在、全体2位、南アフリカ・グループで首位を走る強敵・ストーマーズとの対戦はどうなることやら。

初勝利のハイランダーズ戦の記者会見。笑顔が弾けた(Photo: Nino Lo Guidice)
初勝利のハイランダーズ戦の記者会見。笑顔が弾けた(Photo: Nino Lo Guidice)

今回のハイライトは何といっても、ハイランダーズ戦での勝利。そして、その試合で実現した日本人選手3人のそろい踏みだ。更に言えば、日本生まれの日本人同士(田中と五郎丸)がSRのピッチであいまみえたのも初めてだった。しかも、それを次の日本代表監督であるジョセフがスタンドの上から見守っていたのだから、試合後の五郎丸の「2019年の日本開催のW杯に向けて日本ラグビー界にとって非常に明るいニュース」との言葉を借りるまでもなく、エポック・メイキングな夜となった。そして、今月は、いよいよサンウルブズがやって来る――これもまた歴史的な瞬間だ。なんだかサンコープ・スタジアムで日本ラグビーの歴史が動いていると思うと感慨深い。ラグビーのことを思い考えてキャリアを積んできた五郎丸の思いもひとしおだろう。今度、そのあたりの感慨をじっくり聞かせてもらいたいものだ。

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