本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第4回 存在の比類なき重さ

本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第4回 存在の比類なき重さ

Photo: Kazuya Baba
Photo: Kazuya Baba

Aリーグのメルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)に所属する本田圭佑。第8節後に右ハムストリングを負傷すると、その後の7試合を欠場。欠場期間は1カ月を超えた。その間、チームは負けないものの勝ち切れず、勝ち点を十分に積み上げることができなかった。本田の存在感の大きさ、チームへの影響が改めて浮き彫りになった(文中敬称略)。文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

好事魔多し、思わぬけが

「本田圭佑が止まらない」

前回の冒頭でそう書いた。実際、先月号でカバーできた第8節アウェーでのブリスベン戦までの本田の活躍は、まさに「序盤からフル・スロットル」という表現にふさわしかった。だが、そこから、そのスロットルの開度が一気に下がるのを誰が予想できただろうか。好事魔多し。「さあ、これから!」というタイミングで本田の前に立ちはだかったのが、厄介なけがだった。

2018年12月22日(土)、第9節メルボルン・シティーとのダービー・マッチ。冬休みの日本からも多くの人びとが母国のスーパー・スターの活躍を観るべく訪れた絶好の舞台。しかし、そこに千両役者の姿はなかった。

この日の本田の欠場は、各所で驚きをもって迎えられた。キック・オフに先立ち、クラブ公式ツイッターで「本田不在の」スターティング・メンバーが発表されると、ファンやフォロワーがすかさず反応。それに応えるかのように少し時間を空けて、公式ツイッターが「残念ながら本田圭佑は“予防的見地”からの急な欠場となります」との短いツイートを発した。

主役不在のダービーが引き分けに終わった後の監督会見では、本田に関する質問が飛んだ。それに対して、ビクトリーのケビン・マスカット監督は「彼は今週ずっとトレーニングしていたが、昨日(金曜日)はしなかった。木曜日に彼を見ていて少し疲れが感じ取れたので、練習後に話をして金曜日のチーム練習は休ませ、その後、試合メンバーから外すことを決めた」と欠場の経緯を説明。けがに関しては「ハムストリングだけではなく彼の腰に疲れが溜まっているようだが、長引くことはないと思う」と語った。

監督が「長引くことはない」と語ったけがは、その予想に反して長引いた。本田は、続く第10節(12月28日)ホームでのウェリントン・フェニックス戦も、チームの首脳やメディカル・スタッフの「完全な回復にはもう少し休ませた方が良い」との判断で欠場。ビクトリーはこの試合でも引き分け、2戦連続で勝ちきれず、本田不在の影響の大きさを露呈した。決して厚いとは言えない選手層でやり繰りするチームで、本田の抜けた穴はやはり本人でしか埋められない。欠場が長引くほどに、どんどんとその存在感の大きさが増し、それがくっきりと浮かび上がっていくのだ。

長引いた負傷の状況は?

年が明け、気分一新と行きたいところで、またもハプニングが本田を待ち構えていた。新年初戦となる第11節アウェーでのウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)戦(1月5日)に向けた年末年始のトレーニング。月曜日(18年12月31日)からチーム練習に復帰した本田だったが、元日の“蹴り初め”となる練習中に事件が起きた。通常メニューを消化していた本田が、突如、右のハムストリングの違和感を訴える。すぐに練習をやめピッチ上で専属トレーナーのケアを受け、ほどなく練習に戻るも、結局は練習を切り上げて、本田の2019年は波乱含みのスタートとなった。

翌日に練習を回避して、専門医の診断(スキャン)を受けた結果が「右ハムストリング損傷、全治4週間の見込み」。ビクトリーは大黒柱を更に最低1カ月失うことになった。

この経緯に関して、マスカット監督はクラブ公式リリースでこう語っている。

「(本田は)今週からWSW戦に向けてフル・トレーニングを再開していた。そこに関しての異常があるとの具体的な情報がなかったにもかかわらず、ケイスケが今回のけがの部位(注:右ハムストリング)の張りを訴えてきたので、再び、彼をスキャンに送って、その結果をその日の遅くに受け取った」

ここで気になったのが、「そこに関しての異常があるとの具体的な情報がなかったにもかかわらず」の部分。疑問に思えたのは、今回のけがが先週までの負傷と別の新しいものだったのか、それとも先週までの症状に関連したものなのにクラブ側がその情報をきちんと把握していなかったのかというところ。その辺に関しては、筆者が知る限り、その後どこでも触れられていない。いまだに疑問は残るが、リリースの一節の不自然さが気になったので書き留めておきたい。

ちなみに同リリースは「クラブは、ケイスケの回復が多くの人にとって大きな関心事と理解しているので、適当なタイミングで(情報を)アップデートしていきたい」という一文で終わる。しかし、その後、けがの詳細に関しての情報がクラブから出されることもなく、本田の無事と早期復帰を強く臨むファンは、監督や他の選手の限られたコメントや選手自身のインスタグラムを主としたSNSでの発信で、その状態を慮(おもんばか)るしかなかった。

第11節のWSW戦に帯同せず、治療と回復に専念した本田。当然、その次のアデレード遠征もお役御免と思っていたので、その姿がスタンドにあったのには驚いた。クロスタウン・ライバルのメルボルン・シティーを除けば、地理的に一番近いアウェーの試合だから無理させたのか。他所より移動の負担が少なくても、けがの回復に利することはないだけに理解しづらいクラブの対応だった。もちろん、ピッチ上の「監督」でもある本田のことだから、アデレードでの試合を俯瞰することで大いに収穫を得たであろうが、試合は0-2の完敗。けがを押してまで帯同した本田に「自分がいれば……」とフラストレーションを感じさせるだけの結果に終わった。

シーズン終盤へ待たれる復帰

その後のビクトリーは、第13節ニューキャッスル戦(ホーム)勝利(2-0)、第14節ブリスベン戦(アウェー)勝利(0-5)、第15節ウェリントン戦(ホーム)引き分け(3-3)と、内容はともかくとして負けない戦いを見せて、本田不在の7試合(第9節から第15節、本稿執筆時点)を3勝1敗3分と踏ん張り、首位パースと勝ち点4差の3位をキープしている。結果だけを見れば、本田不在の影響がさほどでもないようにも見えるが、それは明らかな間違いだ。

試合内容を精査すれば、勝てる試合を勝ちきれず、勝ち点を逃す試合が続いている。簡単に先制するもあっさりと追いつかれ、無駄な失点を重ねたが何とか追い付いた第15節のウェリントン戦などはまさにその典型。

本稿執筆時点(1月23日)で、Aリーグは15節を消化し、全27試合のリーグ戦の折り返し地点を過ぎた。残りの日程では、レギュラー・シーズンの優勝争いに併行して、10チーム中6チームが進んで年間王者を決するファイナル・シリーズ(以下、FS)の出場権争いが続く。今年の順位表を見ると、上位と下位に明確な境界線が見えるのが特徴だ。15節終了時点で、6位ウェリントンと7位ニューキャッスルの間に勝ち点差が8もあり、最下位セントラル・コーストとウェリントンに至っては、実に17差。上位陣の調子や戦力などを加味すれば、この差はそう簡単には埋まるまい。

となれば、ビクトリーのFS進出はほぼ確実。すなわち、本田有するビクトリーが、レギュラー・シーズンを制しての「プレミアシップ」とFSを制しての「チャンピオンシップ」の“2冠”を手中に収めるのには、十分な好位置に付けていると言って差し支えないだろう。

本田自身の公式インスタグラムの画像や動画から推し量る範囲では、かなり運動量は上がってきており、回復が順調な様子が見て取れる。しかし、無理は禁物。

まだ、チーム練習に復帰していないので、次の大一番、オーストラリア・デー(1月26日)にホームで行われるシドニーFCとの「ナショナル・ダービー」での復帰の可能性はゼロ。その次が、アウェーで最下位のセントラル・コースト・マリナーズとの対戦(2月2日)のため、そこでも無理をする理由がない。

さすがにここまで引っ張ると、チームもファンもやきもきするだろうが、復帰を焦り、けがを再発させてシーズンを棒に振るようなことになってしまえば元も子もない。ここは、首位をひた走るパース・グローリーとの決戦(2月10日)にじっくりと照準を合わせるのが現実的だ。そこまで休めば、実に8週間、10試合を欠場する計算になるが、27試合中10試合欠場と聞いて、口さがない人びとは「それで高い年棒に見合うのか」などと批判めいたことを言うだろう。しかし、そんな批判の声は一顧だにする必要はない。万全な回復を心掛け、復帰初戦からどかんと大暴れを見せ、シーズンの残りで獅子奮迅の活躍を見せられれば十分に帳尻は合う。

今後の日程に関しては、リーグが佳境に入る3月以降に試合が一気に詰まってくる。本田自身のクラブ・レベルでの日本凱旋の期待も高まるアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)が始まるからだ(筆者注:サンフレッチェ広島がプレー・オフの結果次第で同組に入る可能性がある)。2月に、満を持して復帰、そこからまたフル・スロットルの活躍を見せれば、リーグ優勝、年間王者、そしてアジアでの確固たる存在感と、千両役者にふさわしい結果を得る舞台は十分に残されているから焦る必要はない。

本人の思いを代弁するならば、「少し休みが長くなってしまったけど、戻ったからには暴れるよ。まずは、首位パースをガツンと叩いて、そっからガンガンいきますよ!」といった感じだろうか。本田圭佑の姿がピッチ上にない1カ月ではあったが、その「存在の比類なき重さ」をずしりと感じる濃厚な時間だった。次こそ必ず「Honda in Action」を伝えられるはず。それまでもう少しの辛抱だ。

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