本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第7回 いざ、下克上

本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第7回 いざ、下克上

Photo: Shinya Kosaka
Photo: Shinya Kosaka

狙っていたレギュラー・シーズン優勝を逃し、ACLも事実上の早期撤退の状況にあるメルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)と本田圭佑の大目標はファイナル・シリーズ(以下、ファイナル)制覇に切り替わった。今季のダウン・アンダーでの戦いに「優勝」の2文字を刻むには、ファイナルでの3連勝による“下克上”が必要。そんな本田の奮闘の様子をつづる(文中敬称略)。文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

“3位”に終わったシーズン

メルボルンでの本田圭佑の挑戦を少し距離を置いて見守り、「ダウン・アンダー戦記」として書き記してきた今季がもう少しで終わる。ビクトリーの濃紺のユニフォームに身を包む本田の雄姿を見られる機会も限られてきた。

厳密に言えばシーズンはあと1試合残っていたが(当稿め切り時点=4月24日)、それでも本田のレギュラー・シーズンは既に終わったと書いて差し支えあるまい。

第23節のパース・グローリー戦に完勝も、アウェーで行われた次節(第24節)2位シドニーFCとの直接対決に屈し、その裏でパースが勝利を収めたことで、ビクトリーの今季初タイトル獲得の可能性は霧消した。セントラル・コースト・マリナーズ戦に勝利し迎えた第26節、2位の座を射止めるには落とすことが許されなかったアウェーでのアデレード戦で黒星を喫してしまい、万事休す。逃げるシドニーFCをその射程外に逃してしまった瞬間、ビクトリーの今季3位が確定した。

3位に終わったことで、失ったものは小さくない。ファイナルには進むも、セミ・ファイナルで待ち構えることのできる優勝のパースと2位シドニーFCとは違い、「セミ・ファイナル進出決定戦」からの参戦となる。何とかシドニーFCを蹴落として2位でフィニッシュできていれば、ホーム開催でのセミ・ファイナル出場が決まっていたが、それもかなわず。ビクトリーは6位チームとの決定戦をホームで戦う。その相手がどこになるかは最終節までもつれ込んだが、26節終了時点で分かるのは5位のウェリントン・フェニックス、6位のメルボルン・シティー(以下、メルボルンC)のいずれかとなるということだ。

ファイナル幕開けは“ダービー”!?

その対戦相手、上記のどちらが来ても簡単ではない。ウェリントンに関しては、昨季最下位に沈んだチームを今季から指揮を執った若きマーク・ルダン監督が再生、5年ぶりのファイナルに導いた。しかし、そのルダン監督はやむにやまれぬ家庭の事情で今季限りでの退任を発表。選手だけでなくファンからも愛された指揮官と良い結果を残そうと一枚岩になったウェリントンは、ビクトリーにとって今季の3戦いずれもドローと勝ち切れずにいる厄介な相手だ。かと言って、クロスタウン・ライバルのメルボルンCが組みやすいかと言えば、そうでもない。実は、メルボルンCはウェリントン以上に分が悪く、今季1敗2分けと負け越している。要は、いずれが来ても厄介なわけだ。であれば、盛り上がる方が良い。ということで、今季4度目の“メルボルン・ダービー”で雌雄を決することを願いたい。

その試合に勝てば晴れてセミ・ファイナル進出だが、そこでの相手はもう一方の試合でどこが勝ち上がっても、自動的にシドニーFCと決まっている。これはレギュレーションで、2位(シドニーFC)の対戦相手は「勝ち上がってきたクラブのシーズン順位が高い方」と定められており、決定戦から参戦の4チームは3位から6位のチームで、3位のビクトリーが常に「順位が高い方」となるからだ。

更に言えば、もう一方のセミ・ファイナルでパースが敗れる波乱があれば、グランド・ファイナルがビクトリーのホーム、すなわちメルボルンで開催される可能性は残る。ビクトリーにとっては、その実現とそこで勝利しての2年連続“下克上”による王座防衛こそが最高のシナリオ。稀代の“持っている”男が君臨するビクトリーだけにそんなドラマが起こる可能性も低くは見積もらない方が良いだろう。

ACL欠場のスタンドで何を思う

今季ずっと本田圭佑の報道や発言などを追ってきて、彼の胸の内を読めたらと思うことはよくあった。そのことを特に感じたのが、ACLグループF組の第4節、ホームに広州恒大を迎えた試合をスタンドから見守ることになった時の心境だ。

本田が今季ビクトリーでのプレーを決定するのに大きな要因となったACL参戦。優勝争いをする国内リーグと並行する過密日程の影響もあって、初戦から3連敗とかなり厳しい状況にあったのは事実。ただ、第4節の前段階でグループ・リーグ突破の可能性はまだ残されていた。残り3戦を全勝すれば、同組の他チームの試合結果にもよるが2位に滑り込むことは計算上可能。それでも、ケビン・マスカット監督は、本田ら主力を休ませて若手主体で広州恒大を迎え撃つことを決めた。ある意味、ACLを捨てたのだ。

迎えた試合、先のアウェーでの対戦で0-4と完敗した相手は、この日も容赦なくビクトリーのゴールに向かってきた。だが、先の試合程の怖さはなかった。若手主体のビクトリーは相手の猛攻によく耐えて1-1のドローに持ち込み、今年のACLで初の勝ち点1をもぎ取った。

先日公開された清涼飲料水のCMで、ジャンケンに負けることにすらかなり悔しがるほど負けず嫌いの姿を見せた本田。そんな彼に、今回のマスカット監督の決断はどう映ったのだろうか。そして、若いチームメイトがピッチで体を張ってドローに持ち込むもグループ・リーグ敗退となった試合を見て、「自分がいれば……」と思ったことは想像に難くない。この試合の直前まで、ビクトリーは本田を前面に出したプロモーションで来場を訴えていたが、その試合のピッチに、いやベンチにすら背番号4の姿がないままにACLの舞台を去ることになった。

この試合に先立って行われたAリーグ第26節アデレード・ユナイテッド戦。アウェーでも比較的移動の負担が大きくない(とはいっても、豪州基準だが)遠征で、アデレードでの試合には他のアウェーより多くのサポーターが駆け付ける。この日のスタンドも例外ではなかった。勝ちがマストだった試合は、1-0というスコア以上の完敗。試合後、サポーターはかなりのブーイングをチームに浴びせ、SNSのコメント欄も荒れた。サポーターのいら立ちの矛先は本田個人に向けられることもあった。そんな後味の悪い試合後、そこから切り替えて、ACLで暴れようと密かに期していたに違いない本田。まさかの“休養”指令で、負けずともグループ・リーグ敗退の憂き目にあったチームをスタンドから見守るしかなかった彼の心象風景、それをそっとのぞいてみたかった。

ダウン・アンダーのその先は?

本田の去就について少し書こう。誤解のないようにしたいが、「ダウン・アンダー戦記」と銘打って、豪州での本田の挑戦を書いてきた身としては、同地での挑戦を終えた後に本田がどこでそのキャリアを続けるかは直接的には関係がない。筆者が、本田の新天地での挑戦を「○○戦記」として書き表すことはないからだ。ここから先は、純粋に一サッカーファン、そして、この1年で「本田圭佑」の類まれな強いパーソナリティーに少なからず魅せられた者として、とても興味があるから書く。

4月号では、盟友・長友佑都や香川真司がいるトルコに行けば面白いと書いた。これは、もう興味本位以外の何物でもなくて、単純に「見てみたい」というレベルの話。更に考えていると、この1年で英語でのコミュニケーション能力が劇的に伸びた本田をフットボールの本場であるイングランドで見てみたい気持ちが沸々と沸いてきた。プレミア・リーグの中堅クラブの財政規模であれば、本田の年棒は賄えるし、商業的な側面も考慮して本田を獲得したいと思うクラブがあっても驚かない。ビジネス・マインドの高い本田のことだ、世界の金融の中心であり世界有数の大都市ロンドンにはその好奇心を引くものは少なくないだろう。ある程度考慮できるレベルのオファーが来れば、とんとん拍子で話が進むかもしれない。

もう1つは、彼の大目標「来年の東京五輪にオーバーエージ(OA)枠での出場」に関して。彼が森保一・日本代表兼U-23代表監督の構想の中にあるならば、そろそろ何らかの動きがあってもおかしくないというタイミングになってきている。OAを加えての世代間の融合には、ある程度の時間的スパンを見る必要がある。そう考えた時、浮上するのが招待出場が決まっている6月のコパ・アメリカ(南米選手権)遠征だ。この遠征には、日本代表が今年初めにアジア・カップを戦ったことで、代表の中心選手の所属クラブから選手派遣に関しての協力を得られにくい側面がある。そして、Jリーグも主力選手を多く招集されて戦力低下の恐れがあれば非協力的になりかねない。

そうなった時に、若手主体の人選と共に、本田の招集が一気に現実味を帯びてくる。確かに、本田は「A代表からの引退」を明言している。しかし、事が自身の野望でもある「五輪代表入り」に深くリンクするのであれば、前言を翻して代表復帰というシナリオを選ぶかもしれない。選ぶ側の森保監督の考えやいかに。

少し、話がダウン・アンダーを飛び出してしまったので、軌道修正。とにかくは、マスカット監督がACLを“捨てた”ことによりファイナルにフォーカスできる環境は整い、けが人もようやく戻ってファイナルの修羅場を戦う最低限の戦力はそろった。本田圭佑、そして、キャプテンのカール・バレリの最高のフェアウェルのためにも、1つひとつ確実に高みを目指したい。目指すは、2年連続の“下克上”だ。

さて、6月の最終回。果たして、本田は渇望するタイトルを得られるかどうか。どんなストーリーをこの「ダウン・アンダー戦記」に書き記せるか――。こればかりはもう、果報を寝て待つわけにはいかないので、刮目して見届けるしかあるまい。

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