第65回 NAT 原点

日豪サッカー新時代

第65回 原点
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

どこよりも熱いWSWサポーター。彼らのパッションがスタジアムに戻ってきた(筆者撮影)
どこよりも熱いWSWサポーター。彼らのパッションがスタジアムに戻ってきた(筆者撮影)

Aリーグ、いや、豪州サッカー界が揺れた。

2015年11月22日、サンデー・テレグラフ紙に載った記事が全ての発端だった。レベッカ・ウィルソンというスポーツ・ジャーナリストの記事にリンクして、同紙は一面でAリーグから入場禁止処分を言い渡されたサポーターの一部の実名と顔写真を掲載。そのセンセーショナルな内容に、豪州サッカー連盟(FFA)が適切な対応を怠ったことで、記事の執筆者のウィルソン以上にFFAに批判が集まった。そして、コアなサポーター・グループの怒りは先鋭化、応援のボイコットなどで強い抗議行動につながっていく。FFAがすぐに火消しに回っていれば、名うての“サッカー・ヘイター”であるウィルソンによって引き起こされた今回の一件は、よくあるサッカー批判の1つとして扱われるに過ぎなかったろう。

しかし、FFAは、CEOのデービッド・ギャロップ名義での声明文を出すだけで、完全に初期対応を誤った。その稚拙な対応がサッカーに対するネガティブ・キャンペーンに過ぎなかったものを「サポーター VS FFA」という図式に書き換えられる隙を与えてしまった。この対立の図式が、サッカー・コミュニティ以外に「サッカー・ファンは、いつも何かに抗議している」というネガティブなイメージを広めるのに力を貸してしまった。まさに、ウィルソンらサッカー・ヘイターの思う壺となったのだ。

いわれなき批判やファン・サポーターに対するプライバシーの侵害などには、サポーター、そしてサッカー関連メディアは一様に怒りの声を上げた。しかし、それと同質の怒りはFFA、Aリーグのいずれからも感じ取れなかった。そのことが、大きな失望を生み、サッカー界の大元締めたるFFAの権威は失墜した。

空っぽのサポーター席に「Gone to pub」と大書された横断幕が掲げられスタジアムにも、ようやくコアなサポーターたちが戻ってきた。FFAのスティーブン・ローイ新会長がより突っ込んだ内容の会見を行ったことで、12月2週目に行われた第10節でボイコット騒ぎは沈静化された。

12月11日、Aリーグ一熱いサポーター集団「RBB」が戻ったパーテック・スタジアムでは、ホームのWSWが2−1で快勝。リーグでも首位に立ち、多くの熱狂的なサポーターと勝利の喜びを分かち合った。こういうスタジアムの有り様こそ、サッカーのあるべき姿。FFAには「サポーターあってのサッカー」という原点に、ぜひ立ち返ってもらいたい。


【うえまつの独り言】
毎年恒例のクラブW杯。3年ぶりの日本開催でJ王者の広島が2連勝で準決勝に進出。どこからでも点が取れる広島は、J王者にふさわしいサッカーでアフリカ代表を一蹴した。日頃、Aばかり見ていると、たまのJには「上手いな」と思わされるのが常。何とか南米王者リーベルを倒して、次は世界をあっと言わせたいところだ。

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