第29回 QLD 侍が見る夢

日豪サッカー新時代


 

日豪サッカー新時代

 

 

第29 侍が見る夢

 

 

文・植松久隆

 

 雲の切れ目から夏の日差しが顔を出し始めた、ある日曜日の朝。ブリスベン南郊のとある町クラブのグランド、緑鮮やかな芝の上でサッカーに興じる子どもたちの姿がある。一見、週末の豪州のどこの郊外でも見かける光景だが、よくよく見てると、どうも少し趣きが異なる。ボールを追うのは日本人か日本の血を引く子どもばかり。練習をピッチサイドで見守る母親たちもすべて日本人。さらには、子どもたちとともにボールを追い、指導する2人のコーチも日本人。そこは、日本のサッカー・スクールが再現されたような異空間。

子どもや母親たちに“りんコーチ”と呼ばれ親しまれているのが、この“豪侍”というやや時代めいた名を持つサッカー・スクールを主宰する三上隣一。自身、ブリスベン・プレミア・リーグ(BPL)でプレーする現役選手である三上は、日本ではユース世代の名門として名高い三菱養和でプレー。サッカー選手としては異例の多摩美術大学に進学した変わり種。卒業後に来豪、NSWプレミア・リーグやBPLでプレーしてきた経歴を持つ。


夢を熱く語る三上隣一選手

日に焼けた精悍な顔つきで本人こそ“侍”と呼ばれるに相応しい三上だが、子どもに相対する時の表情は実に柔らかい。子どもたちは、三上が時折披露する高いテクニックに感嘆の声を上げ、次に自分がボールを持った時にはすぐに真似をして試してみる。何度か繰り返すうちに新しいスキルを身に着け、自分の物にする。そこは、日本仕込みの技術伝承の場でもある。「いや、子どもたちの成長力はすごい。本当に回を重ねるごとにどんどん上手になる」と手ごたえを口にする三上。その日本流のコーチングに基づく指導力の評判は、口コミでブリスベンの邦人コミュニティーに広まり、今も入団希望者が引きもきらない。

日豪両国でキリスト教の宣教師として活動していた両親の下に、シドニー西郊パラマッタで生を受けた三上。パラマッタは、豪州でも有数のサッカー処と知られるウエスタン・シドニーの中心地で、小野伸二のワンダラーズの本拠地として知られる。そこで、人種も宗教も異なるいろいろな多民族をつなぎ、時には民族の文化的・精神的な拠りどころとなるサッカー・クラブを身近に見て育ってきた三上には夢がある。

保護者の理解・協力を得ながら活動するスクールの発展を軸にして、急激にマルチカルチャー化が進むブリスベンで日系社会の「拠りどころ」を創り出したい…。現時点では夢物語だが、理想を熱く語り、諦めない行動力を持つ三上であれば、将来的に何かを成し遂げるように思えてならない。侍が見る大きな夢を見守りたい。

 


 

【うえまつの独り言】

10月24・25日のサッカルーズとオリ ルーズ(U-23代表)合同の国内キャ ンプにAリーグ所属の31人が召集され た。「構想に入っていたのか」と驚か されたベテランから19歳の若手まで網 羅された人選。A軽視に終始したピムと 違ってオジェック流のアプローチは国 内組のモチベーションを高める。

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