労働党の税制改革(Ⅱ)

税務会計最前線

KPMG会計事務所
パートナー 八郷 泉


労働党の税制改革(Ⅱ)


今月は、前月号に引き続いて、2008年8月6日に政府が公表したアーキテクチャー・ペーパー (Architecture Paper, Architecture of Australia’s tax and transfer system) の解説である。アーキテクチャー・ペーパーとは、労働党政権が将来の税制を構築するために公表した討議目的の報告書である。前月号では、報告書の要旨と税制および移転給付制度の国際比較を紹介した。今月号では、個人の税制および移転給付制度、労働、投資および消費に対する課税のバランス、貯蓄および投資への課税についての議論を紹介する。

(4)個人の税制および移転給付制度

前月号で述べたように、オーストラリアの個人所得税の最高税率および課税所得区分は、およそOECDの平均である。しかしながら、OECD10カ国の中では、オーストラリアはキャピタル・ゲイン(50%割引にもかかわらず)および利子所得に対する課税率が高い。

オーストラリアは、財産、不動産、遺産、贈与に対する課税がない。しかしながら、これらの課税を行っている国において、全体の税収への貢献度は無視できるレベルであることが観察される。さらに、課税所得区分に関して、オーストラリアは毎年自動的に物価スライド調整を行う制度を有していないが、過去20年間にわたり、度重なる改訂によって十二分に補正されている。

個人の税制および移転給付制度の中心的課題は、人口動向を踏まえての、低資産層へのサポートのレベル(およびサポートの形態)である。また、この報告書は、二次的所得層がフルタイムの雇用に就いた場合に直面する高い限界税率にも焦点を当てている。

オーストラリア政府は、炭素ガス削減スキームの導入に対する世帯への補助を公約している。補助のメカニズムはレビュー・パネルによって検討される。

(5)労働、投資および消費に対する課税のバランス

アーキテクチャー・ペーパーは、オーストラリアにおける労働、投資および消費に対する課税の割合を検討し、OECD諸国と比較している。

オーストラリアは、若干、労働所得に対する課税に傾斜している。これには、給与および賃金に対する課税、フリンジ・ベネフィット税、年金掛金への課税および、ペイロール・タックスを含む。労働所得に対する課税は全体の税収の約40%である。

資本所得への課税比率は33%であり、消費は27%である。

資本への課税は、法人税、利子・配当・キャピタルゲイン・一定の事業所得などの個人の資本所得への課税、石油資源使用税(PRRT)、原油物品税、および土地税・譲渡に係る印紙税等の財産への課税を含む。

消費への課税は、GST、タバコ・アルコール・燃料への物品税、および消費物品に対するそのほかの諸税を含む。

ほかのOECD諸国と比較して、オーストラリアは労働への課税割合が低い。このことは、他国は、賃金・給与などの所得に課税する、社会保障課金が多用されていることを反映している。

オーストラリアは、資本への課税割合が最も高い国である。部分的には、このことは、法人税の税収への寄与が比較的高いことによる。

(6)貯蓄および投資への課税

広範な効率の問題を分析して、アーキテクチャー・ペーパーは、税制が貯蓄および投資の選択に複雑な影響を与えることを議論している。

税制は、貯蓄および投資のインセンティブおよび意思決定にさまざまな影響を与える。なぜならば、異なる資産、異なる資金調達、異なる企業形態に対する税務取扱が、相互作用を起こすからである。

資産への課税

欠損金の税務取扱はリスク資産への投資に対するインセンティブとして影響することから、いくつかの国は欠損金の利用を高める措置を有していることが観察される。

例えば、繰戻還付(carry back)措置 は、米国、英国、カナダ、アイルランドおよびオランダで採用されており、その繰戻期間は1年から3年である。

法人の税務欠損金の利用を高める別の措置として、税務欠損金を投資家にフロー・スルーすることを認めている国がある。米国では一定の企業にはパートナーシップの税務取扱が適用され、ニュージーランドでは一定の適格な法人は欠損金を株主に帰属することができ、カナダでは鉱山業、石油業および一定の再生可能エネルギーについての支出は投資家に移転できる。

ゲインを実現ベースで課税することは、「閉じ込め(lock-in)」効果を導き、譲渡時に含み利益に課税されるので投資家は資産を取替えることを躊躇する。

企業形態とその課税

個人は、事業および資産に投資するほとんどの場合、会社、信託、パートナーシップおよび年金基金等の事業体を通じて投資を行う。これらの事業体への課税取扱の相違は、個人の投資について異なる実効税率を生じさせる結果となる。

会社が最も普通の投資形態であり、利益的にも最も大きい。高所得者は、一般的に、ほかの形態または直接投資するよりも、会社を通して銀行預金および債券に投資することを選択する。これは、会社の課税率と個人の最高税率との差から生じる課税の繰延のベネフィットを反映している。研究開発(R&D)の機械装置への投資は、会社には優遇措置が適用されるが、そのほかの投資形態には適用されない。しかしながら、いったん株主に配当を行えば、インピュテーション制度により、繰延のベネフィットは取戻し課税により失われる。

借入と資本への課税

居住者の投資家の見地からは、インピュテーション制度により、資本への投資の利益と貸付への投資の利益とでは、税務上の取り扱いが異なる。

しかしながら、非居住者の投資家にとってはインピュテーション・クレジットを受取るベネフィットは少なく、従って、非居住者を資金調達の主たる源泉としているオーストラリアの会社の資金調達と投資の意思決定にはインピュテーション制度はあまり関係しない。

非居住者の株主と居住者の株主の取り扱いが異なることは、インピュテーション・クレジットを居住者に対して多く分配させる誘因となり、これを防止しようとする規定は税法を複雑にし、また、コンプライアンス・コストを増大させている。

国によっては、資本と借入の取り扱いを同じようにすることを試みている。例えば、資本の配当について(利子控除と同等の)一定の控除を認めている。

クロス・ボーダー投資への課税

クロス・ボーダー投資の急激な増加は、オーストラリアにおける貯蓄および投資への課税を検討する場合に、国際的要素がますます重要となっている。

オーストラリアへのインバウンド投資およびオーストラリアからのアウトバウンド投資の著しい増加により、居住者の国外源泉所得の課税および非居住者のオーストラリア投資から生じた所得の課税は、以下のようなさまざまな問題点を生じさせる。

居住地国課税は、コミュニティーの基準に一致した公平な課税がしやすいなど、一定の有利さがあるが、このモデルは複雑になる。海外とのフローおよび取引、海外の法的主体および外国の税制との相互作用を取扱う必要があり、その結果強制することの困難さおよび税務上の居住地の移転を招く。居住地国課税は、非居住者に所有されている居住会社にとって問題である。

源泉地国課税については、オーストラリアの場合、ほかの国と異なり包括的な源泉規定を持っていないので、曖昧な点がある。また、源泉ベースの課税は、強制力について問題がある。

天然資源への課税

オーストラリアは、鉱山業に適用している、複雑な多くの租税および非租税の歳入徴収手法を有している。異なる資源税、ロイヤリティ、支払の取決めが、同種のみならず異なる資源にわたって賦課されている。例えば、石油についての歳入徴収手法として、PRRT、クルード・オイル税、連邦政府によるさまざまなロイヤリティ、州政府による別の石油ガス・ロイヤリティなどがある。


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