紅葉特集──シドニーの短い秋を愛でる

紅葉特集
シドニーの短い秋を愛でる

「オーストラリアに四季はない」と言われる。国土が広大なため一概には語れないが、例えば最大の都市である南東部のシドニーでは、暑く長い夏が終わり、夏時間が終了して日暮れが一気に早くなると間もなく、冷たい南風が冬を連れてくる。透き通った秋空を鮮やかに彩る木々を眺めながら、南半球の儚い秋を味わってみたい。
(ジャーナリスト:守屋太郎)

オーストラリアで紅葉狩り!?

奈良時代の「万葉集」に謳われ、平安時代の源氏物語第7帖「紅葉賀」(もみじのが)に描かれているように、古くから私たち日本人に親しまれてきた「紅葉狩り」。貴族や上流階級の楽しみだった紅葉狩りが大衆に普及した江戸中期以降、秋の夜空の満月を眺める月見とともに、秋の風物詩として楽しまれてきた。すぐに散りゆく満開の桜を喜ぶ春の花見と同じく、葉が枯れ果てる寸前、真っ赤に染まる山を眺めながら、私たちは自然の侘しさを人の命の儚さに投影してきたのかもしれない。

紅葉は、厳しい冬を目前に、落葉樹の葉に含まれる色素が、枯れる直前に変色する自然現象である。日本だけではなく、四季のはっきりとした、主に北半球の中緯度帯では珍しくなく、鮮やかに変色する落葉樹が自生している。日本のように伝統行事として根付いているわけではないが、カナダやアメリカ北部にもメープル(カエデ)の紅葉名所は点在していて、観光スポットとして人気を集めている。

一方、オーストラリア大陸の大半は、砂漠や乾いた荒野。緑に覆われているのは、比較的雨が多い海岸沿いだけである。その少ない緑地も、常緑樹のユーカリ林が全体の4分の3を占める。乾季の前に葉を枯らす特殊な落葉樹もあるが、冬に葉が枯れる前に鮮やかに変色する落葉樹は、一部の例外を除いてオーストラリアの在来種には存在しない。

ただ、海外から持ち込まれた落葉樹の紅葉が鑑賞できる街路や庭園、植物園などは点在している。最適なタイミングを当てることができれば、駆け足で冬に向かう、秋の美しい情景を楽しめるだろう。

抑えておきたいポイントは?

黄金色の街路樹に包まれたニュー・イングランド大学のキャンパス=ニュー・サウス・ウェールズ州北中部アーミデール(Photo: Destination NSW)
黄金色の街路樹に包まれたニュー・イングランド大学のキャンパス=ニュー・サウス・ウェールズ州北中部アーミデール(Photo: Destination NSW)

オーストラリアで紅葉を楽しむ上で、注意したいポイントは幾つかある。第一に、日本のように山全体が真っ赤に染まるような絶景は期待できない。オーストラリアの温帯地方で秋に葉が変色する落葉樹は、基本的にヨーロッパ人の入植後に植樹された外来種であり、常緑樹主体の原生林で紅葉を見ることはできない。

ただ、例外はある。在来種の低木「タングルフットブナ」(英名:Tanglefoot beech、学名:Nothofagus gunnii)。南部タスマニア島の山奥だけに自生する落葉樹で、秋に赤から橙色、黄色へと葉が変色する。見頃は、伝統的にアンザック・デイ(4月25日)の連休前後。この頃になると、同島のクレイドル・マウンテンやセント・クレア湖国立公園、マウント・フィールド国立公園では、黄金に染まった山の景色が堪能できる。

第二に、紅葉の最適な見頃を当てるのがなかなか難しい。紅葉のスポットが限られている上に、紅葉を愛でる文化が日本のように一般的ではないため、メディアが「今が見頃だ!」という情報を大々的に報じることは少ない。また、短い秋から冬に向かう季節の変わり目の悪天候と、紅葉のベスト・シーズンが重なる可能性がある。

こうしたことから、最適な見頃を当てるためには、ネットやソーシャル・メディアで紅葉情報を検索したり、各地の観光局や植物園などに直接問い合わせたりするなどの情報収集は欠かせない。一般的にニュー・サウス・ウェールズ州南東部一帯の紅葉のベスト・シーズンは4月下旬から5月下旬ごろとされるが、気象条件によって早まったり遅れたりする。旅行を計画する際は、リアルタイムで紅葉の進行状況を把握しつつ、天気予報で穏やかな晴天が続く数日間をピンポイントで狙いたい。

シドニー北方を流れるホークスベリー川中流域、ロワー・マクドナルドにある「クロス・ハウス」(Cross House)。囚人労働者によって1830年代に建てられた砂岩造りの豪邸に泊まることができる(Photo: Destination NSW)
シドニー北方を流れるホークスベリー川中流域、ロワー・マクドナルドにある「クロス・ハウス」(Cross House)。囚人労働者によって1830年代に建てられた砂岩造りの豪邸に泊まることができる(Photo: Destination NSW)
シドニーの南西約300キロにあるキャンベラの紅葉=人工的に建設された首都の公園や街路には外来種の落葉樹が数多く植えられているため、すばらしい紅葉が楽しめるスポットが無数にある(Photo: Visit Canberra)
シドニーの南西約300キロにあるキャンベラの紅葉=人工的に建設された首都の公園や街路には外来種の落葉樹が数多く植えられているため、すばらしい紅葉が楽しめるスポットが無数にある(Photo: Visit Canberra)

シドニーで気軽に紅葉を楽しむ

まずはシドニー周辺で気軽に紅葉が楽しめるスポット。市内のシドニー王立植物園(Royal Botanic Garden Sydney)には、秋に美しく変色する海外由来の落葉樹も多く移植されている。同植物園の学芸員を務めるデービッド・ロクリンさんはこう話す。

「秋と冬の気候が温暖なシドニーでは落葉樹はあまりよく育ちませんが、それでも紅葉が楽しめる木はありますよ。当植物園で個人的にお薦めしたいのはイチョウ(Ginkgo)です。イチョウはシドニーでも丈夫に育ち、秋には美しい黄金に変色します。東洋の落葉樹も幾つかあり、中でもカエデ(Maple)はすばらしい紅葉が楽しめます」

東部郊外のセンテニアル・パーク(Centennial Park)では、秋に葉が赤く染まるモミジバフウ(Liquidambar styraciflua)などの紅葉が鑑賞できる。「4月中旬から5月下旬にぜひ行ってみてください。モミジバフウの他にも、手のひら状の葉が黄金に色付くユリノキ(Tulip Tree)も必見です」とロクリンさん。この辺りでは、政財界の要人の邸宅が並ぶウラーラ(Woollahra)のオーシャン・ストリートやクイーン・ストリートにも、古くから落葉樹の街路樹が植樹されており、閑静な住宅街の秋の風情を味わうことができる。

市内から西へクルマで約20分。オーバーン植物園(Auburn Botanic Gardens=入場料大人$5、開園時間9AM〜5PM)は、春に桜が咲く日本庭園で知られているが、秋には紅葉も楽しめる。園内にはカンガルーやワラビー、エミューなどの動物がいて、バーベキューやピクニックもできるので、子ども連れの家族でも楽しめそうだ。

(上、左下)ブルー・マウンテンズの中心の町、ルーラの町並み(Photo: Destination NSW)、(右下)人気レストラン「ルーラ・ガレージ」(Leura Garage)の中東風サラダ(Photo: Destination NSW)
(上、左下)ブルー・マウンテンズの中心の町、ルーラの町並み(Photo: Destination NSW)、(右下)人気レストラン「ルーラ・ガレージ」(Leura Garage)の中東風サラダ(Photo: Destination NSW)

「スリー・シスターズ」などの定番の観光スポットとしておなじみのシドニー西方、ブルー・マウンテンズ。その名の通り空気を青く変色させるユーカリ原生林が有名だが、秋になるとカエデやイチョウが鮮やかに色付く植物園「ブルー・マウンテンズ・ボタニック・ガーデン・マウント・トーマ」(Blue Mountains Botanic Garden MountTomah)を始め、マウント・ウィルソン(Mount Wilson)、中心の町・ルーラ(Leura)の「エバーグレイズ・ガーデン」(Everglades Garden)など、紅葉の好スポットも点在している。

ルーラの中心街には、レストラン・ガイド・ブック「グッド・フード・ガイド」の評価が「14/20」と高い、地元産の食材を多用した料理店「ルーラ・ガレージ」(Leura Garage)を始め、しゃれたカフェや小物店などがあり、紅葉狩りを兼ねてぜひ訪れてみたい。

宿泊は、資金に余裕があるなら、ブルー・マウンテンズの更に西方にある「ワン&オンリー・ウォルガン・バレー」(One & Only Wolgan Valley)に一度は泊まってみたい。「6スター」のプライベートな邸宅に滞在しながら、セレブ・シェフの料理に舌鼓を打ったり、広大な荒野の敷地内を馬や4 輪駆動車で走破したりできる。宿泊費は大人2人、2泊3日で4,980ドルから(平日)と超高額だが、世界最高クラスのラグジュアリーなアウトバック体験がしたいなら、コロナ禍で空室がある今(2021年2月末時点)は予約が取れるので狙い目だ。

ドライブ旅行へ行こう

紅葉狩りを満喫するには、車で週末旅行に出掛けるのが一番だ。シドニー市内から南西へ約110キロ。緑に覆われた山々となだらかな丘陵地帯が続く一帯は、「サザン・ハイランズ」(Southern Highlands)と呼ばれる。海抜500〜900メートルの高地にあり、一足早く秋がやってくる。英国の田園地帯を思わせる緑豊かな山や街路には、外来の落葉樹が植えられ、紅葉のホット・スポットも多い。

筆者は数年前にこの辺りに紅葉を見に行ったことがある。澄みきった、ひんやりとした空気の中で色付き始めた落葉樹が、確かな四季の移り変わりを感じさせてくれた。平坦な地形のシドニーと違い、樹木が生い茂った山や谷が続くサザン・ハイランズの風景には、山に覆われた日本の田舎を思わせる、懐かしさや既視感もあった。

地元の観光案内所「サザン・ハイランズ・ウェルカム・センター」のトリッシュ・バウさんはこう話す。

「紅葉の見頃は、伝統的に4月下旬から5月下旬ですが、気温や降雨によって前後します。ナラ(Oak)、ニレ(Elm)、シラカバ(Birch)、ヤナギ(Willow)、ポプラ(Poplar)、ブナ(Beech)、カエデ(Maple)、イロハモミジ(Japanese Maple)、スモモ属の木(Prunus)、サクランボの木(Flowering Cherry)、野生のリンゴの木(Crab Apple)など多種多様な落葉樹の紅葉が楽しめます。これらは全てヨーロッパ人の開拓者が持ち込み、植樹したものです」

バウさんのお薦めの紅葉スポットについて聞いてみた。

「シドニーからサザン・ハイランズへの玄関口となるミッタゴンの北側の街路や、バラドゥー(Burradoo)、イースト・バウラル(East Bowral)のハイランド・ドライブ(Highland Drive)、バウラルのエリッジ・パーク・ロード(Eridge Park Road)は圧巻です。モス・ベール(Moss Vale)の「リートン・ガーデンズ」(Leighton Gardens)、バウラルの「コーベット・ガーデンズ」(Corbett Garden s)、ミッタゴンの「ウィンフレッド・ウェスト・パーク」(Winifred West Park)といった小さな公共の公園もすてきですよ」

見どころは紅葉だけではない。同センターがあるミッタゴン(Mittagong)を始め、バウラル(Bowral)、ベリマ(Berrima)などの中心部には、植民地時代の歴史的な町並みが残る。囚人が1834年に建設したベリマの「サベイヤー・ジェネラル・イン」に代表されるパブ、レストラン、商店など開拓時代の建築物が、当時の雰囲気を伝えている。

サザン・ハイランズのバウラルにあるワイナリー「センテニアル・バインヤーズ」(Centennial Vineyards)の朝焼け(Photo: Destination NSW)
サザン・ハイランズのバウラルにあるワイナリー「センテニアル・バインヤーズ」(Centennial Vineyards)の朝焼け(Photo: Destination NSW)
(上)ブルー・マウンテンズの西方にある、6スターの超高級リゾート「ワン&オンリー・ウォルガン・バレー」(One & Only Wolgan Valley)(Photo: James Horan; Destination NSW)、(左下)サザン・ハイランズは豊かな食材に恵まれ、レストランの水準も非常に高い=ベリマにあるモダン・オーストラリア料理の銘店「エシャロット」(Eschalot)、(右下)ブドウ農園とワイン工場にセラー・ドア、質の高いレストランを併設しているベリマのワイナリー「ペッパーグリーン・エステート」(下段 Photo: Destination NSW)
(上)ブルー・マウンテンズの西方にある、6スターの超高級リゾート「ワン&オンリー・ウォルガン・バレー」(One & Only Wolgan Valley)(Photo: James Horan; Destination NSW)、(左下)サザン・ハイランズは豊かな食材に恵まれ、レストランの水準も非常に高い=ベリマにあるモダン・オーストラリア料理の銘店「エシャロット」(Eschalot)、(右下)ブドウ農園とワイン工場にセラー・ドア、質の高いレストランを併設しているベリマのワイナリー「ペッパーグリーン・エステート」(下段 Photo: Destination NSW)

モートン国立公園(Morton National Park)にある高さ81メートルの滝「フィッツロイ・フォールズ」(Fitzroy Falls)も必見だ。全長6キロの遊歩道でブッシュ・ウォーキングを楽しみながら、15カ所の見晴台から絶壁を流れ落ちる水の飛沫を眺めることができる。

肥沃な土地と水に恵まれたサザン・ハイランズは、ワインを始めアンガス牛、豚、鴨、トリュフといった良質な食材の宝庫でもある。ワイナリーは50カ所以上あり、シドニーから多くの美食家が訪れる料理店の水準は高い。モス・ベールの「バーチ」(Birch)やベリマの「エシャロット」(Eschalot)など全国的に評価の高いモダン・オーストラリア料理の銘店が点在し、地元名産のワインとセットになったおまかせメニューが楽しめる。

宿泊は、開拓時代の建築物や農場の雰囲気が味わえる個性的なロッジやコテージがお薦めだ。カンガルー・バレー(Kangaroo Valley)にある「ブレーブルック」(Braebrook)では、農場の屋敷を一軒丸ごと借り、川辺の草原をカンガルーやワラビーが闊歩する雄大な景色を眺めることができる。また、バンダヌーン(Bundanoon)にある「モーバーン・バレー・ファームステイ・コテージ」(Morvern Valley Farmstay Cottages)では、動物たちと戯れながら農場生活が体験ができる。子ども連れの家族には最高のホリデーとなるだろう。

なお、サザン・ハイランズ・ウェルカム・センターでは紅葉シーズンに向けて、下記のブログやソーシャル・メディアで最新情報を発信する予定。旅を計画する人は、ベストなタイミングを逃さないために、必ずチェックしておきたい。

●Southern Highlands Welcome Centre
●住所:62-70 Main St, Mittagong NSW 2575
●Tel: (02)4871-2888
●営業時間:9AM〜5PM(土日は4PMまで)
●ブログ: www.visitsouthernhighlands.com.au/blog
●インスタグラム: www.instagram.com/visitsouthernhighlands
●フェイスブック: www.facebook.com/DestinationSouthernHighlands
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