メディア体験プログラム2020 オーストラリアで暮らすという選択

日豪プレスメディア体験プログラム2020

オーストラリアで暮らすという選択
――海外に飛び出す若者へのすゝめ――

外務省の平成30年度海外在留邦人数調査統計によると、2017年オーストラリアに在留した日本人は約9万7,000人。これだけの人がオーストラリアに身を移して暮らすという背景には、日本にはない魅力があるのではないだろうか。その魅力を語ってくださったのは、シドニーに定住し約40年というシドニー日本クラブ(JCS)副会長の水越有史郎さん。まだまだ海外旅行が盛んでなかったころに渡航して、現在シドニーで生きる水越さんが語るからこそ、オーストラリアと日本の良い点・悪い点に関する話には重みがある。更に、若い世代に向けたこれからの活動についても話を伺った。
(取材・文=鵜飼千尋、齊藤未来、髙木瞭、編集=石神恵美子)

オーストラリアってどんな国?

――長く住んでいるからこそ感じるオーストラリアの良さは何ですか?

一番は「イイカゲン」なところです。「いい加減」でなくて、「良い加減」。オーストラリアの街の雰囲気、お店での人とのコミュニケーションを通じて感じたのは、”No worries”と言って、細かなことをあまり気にしない文化があることです。私の出身地である北海道となんとなく似たところを感じられる一方で、日本ではあまり感じることのなかった快適な雰囲気に惹かれていきました。もう1つは、多文化・多民族社会特有の多様性を受け入れる度量の広さがあることです。同調圧力が強い日本に比べて、民主主義制度が確立されていると日常で感じます。女性の社会進出も多いですし、女性が1人でも生きていける社会はとても魅力的ではないでしょうか。良い加減でありつつ、個人の自由が保障されているのも魅力です。

――多民族国家では差別などもあるのでは? そういった点でも暮らしやすい環境だと思いますか。

もちろんアジア人やアボリジニー(先住民族)などに対しての差別意識が全くないわけではありませんが、それ以上に自由に生きられる環境だと思います。個人の生き方が尊重され、自分のスタイルを貫いて生活することができる。例として、外を裸足で歩ける社会。実際、私も裸足で歩いてみたこともあるけれど、この国では服装も人それぞれで、Tシャツに短パン、ゴム草履(ぞうり)で1年中過ごそうが誰も全く気にしません。移民社会にありがちな悪い部分もありますが、問題がありながらも人間的で良い社会だと感じています。日本がとても快適だと思っていたらオーストラリアの悪い部分ばかり見えてしまって、住み続けていたいとは思わないでしょうし、こちらの生活を好むということは、日本での暮らしに何かしらの不満を感じていたのだと思います。自分にはこの自由さが合っているのでしょうね。

――逆に、オーストラリアの良くないところは何だと思いますか?

どうしても日本社会で身に付いた常識で判断してしまうから、オーストラリアで日常的に不満が全くなかったわけではありません。店員の態度につい頭に来たりしたことも当然ありますよ。質問をしても人によって違う回答が返ってきて信用できないこともあれば、逆にサービスされて得することだってあります。でもそのようなことをいちいち考えていても、自分自身の時間の無駄なのですよ。いろいろなバックグラウンドの人によって社会が構成されているオーストラリアが、日本のように1つの教育制度の下で形成されてきた社会と違うというのは当たり前だと思いませんか。だんだんといい加減な部分が逆にちょうど良いのだと感じられるようになるのです。とはいえ、ドラッグの取引、ひったくりや置き引きは珍しくなく、日本では信じられないような犯罪だってあるので、そういう面ではどうしようもない国だなと思ったりもするけれど、総じてやはり快適な国です。もちろんそれが嫌で日本に帰ってしまう人もいますが、のほほんと生きればいいと思いますね。悪い面については、あえて考えないと出てこないくらいです。

オーストラリアから見た日本

――日本の悪いところは何だと思いますか。

日本は同調圧力がとても強いと思います。若いころはそれがだんだん変わるだろうと思っていたけれど、最近の社会を見ているとますますひどくなっていて、非常に情けないです。また、日本人は政治や社会にすごく影響されていると思います。ワーキング・ホリデーや学生として来た若い日本人のほとんどが、オーストラリアにおいて自由でのびのびとした雰囲気を知り、楽しかったと言って帰っていくけれど、結局日本では周りに合わせて生きていく姿を見ると不思議ですね。それほど同調圧力が強い社会になってきているのか、若い人の意思がだんだんと弱くなっているのか、それは分からないけれど、何かに影響されていることは良くないと思います。

――逆に日本の好きなところは何ですか。

日本語の表現の豊かさです。例えば、日本語で表現できる色は細かいですよね。普段それほどの色使いはしないのだけれど、よくよく見ると確かにそういった色はあります。数多くの色彩を1つひとつ細やかに表現し、言葉として残してきたことは、豊かな文化力の証しだと思います。

若い世代とのつながり

――オーストラリアに留学する、または定住するという選択肢を取る人は今後も増えると思われますか。

日本で大きな社会変容が起きて、世の中がクローズな方向へ向かうなど余程の変化がない限りは、グローバル化は必然的ですから、今になって逆戻りすることはないでしょう。国際結婚の増加とそれに伴う移住、また、ワーキング・ホリデーの成果は著しいと思います。そのように考えると、今後、日本人が移民として海外に出向くという選択は自然と増加していくのではないでしょうか。

――オーストラリアにも日本からの留学生が増えていきます。永住者ではない彼らとは、具体的にどのように交流されているのでしょうか。

JCSとしては、留学生相手の活動は特に行っていません。しかし、学生たちがJCSの日本語学校やお祭りイベントにアシスタント・ボランティアとして参加してくれることで、彼らとの付き合いは出てきますね。学生はどうしても滞在期間が限られているので、その短い時間の中での交流にはなってしまいますが。例えば、日本でよさこいソーランのサークル活動をしていた学生が、JCSのクラブ活動のソーラン踊り隊に加わって、お祭りに参加してくれたこともありますよ。

―― 短期滞在者向けのサポート活動は行っているのでしょうか。

昔は、情報を入手すること自体が困難な時代だったので、生活セミナーのような活動を行っていました。しかし、今は生活指導やトラブル対応といった面も留学エージェントが担っているので、JCSとしての活動は行っていません。ネットや専門的なサービス、あるいは友達を通じて、何かトラブルがあっても個人で解決できる時代になっていますから。もちろん、長年、日本人永住者のコミュニティーとしてJCSがあることはよく知られていますから、困っていること、協力してほしいことなどの問い合わせがあった場合の支援は日常的に行っています。

――今後、若い世代への働きかけが必要になると思われます。JCSの取り組みとして何かお考えはありますか。

その思いは以前からありますね。留学生やワーキング・ホリデーで来る若者にも会の活動に参加してもらえれば、JCSの活性化にもつながります。他方、若者にとっても、オーストラリアに長い間住んできた大人から色々なものを得ることができ、有意義な経験になるのではないかなと。こちらにいる間に何らかのきっかけでJCSとのつながりを持って、一度日本に戻ったとしても、その経験が将来的にJCSとの新たなつながりに発展すれば、うれしいですね。実際に、幼児教育の資格を得るためにオーストラリアに戻ってきた学生や、お祭りイベントにまた参加したくて、その時期に合わせて旅行で来た学生もいます。

――若い世代とのつながりを保つことについて、困難もあると思います。

学生となると滞在期間が限られているので、密な関係ができても、熱心に取り組んでくれた学生が帰国してしまえばそこで振り出しに戻ってしまう。仕方のないことだけれど、そのような状況が続いてしまうという課題があります。どのように働きかければ若い世代に会の活動へ参加してもらえるか、こちらが逆に聞きたいくらいですよ(笑)。

――最後に、これからオーストラリアに飛び出す学生への激励のお言葉や思いがあれば教えてください。

昔と違って、どんな情報もすぐに手に入れることができる時代になりました。皮肉にも、人びとは必要な情報のみを手に入れようとして、せっかくの豊かな情報を無駄にしてしまっています。ネットの発展が世界をバラ色に変えていくと思われたけれど、どうもクローズな方向へ収束してしまっていて、日本でも同じ状況だと思っています。このような状況下で、海外に飛び出したチャレンジ精神を大事にしてほしいです。オーストラリアに限らず、その一歩はとても大切で、海外でのチャレンジで感じたことを最大限に生かしてほしいです。そのためには、日本に戻っても、日本社会の閉鎖性に”埋没”しないよう、気を付けてほしいですね。若い好奇心がある間に、いろいろな地域を訪れて豊かな情報を得る姿勢さえ失わなければ、今の時代でも将来につながるものが残るはずです。その意味で、オーストラリアではさまざまなエスニック文化が混在していますから、多くの文化を知り、多くの情報を得るベストな機会を提供してくれるでしょう。

JCSの活動の
3本柱

シドニーで開催されたお祭りイベント
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日本人高齢者への支援
日本人高齢者への支援
日本語教育にも力を入れている
日本語教育にも力を入れている

水越有史郎(みずこし・ゆうしろう)
1954年北海道生まれ。82年にオーストラリアに移住。日本語情報誌の出版社を起業し、サイト運営会社と合併後、取締役就任。96年からシドニー日系コミュニティーの団体「シドニー日本クラブ」(JCS)理事。その後会長を務め、現在は副会長。JCS日本語学校エッジクリフ校校長。認定ビザ・コンサルタントでもある

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